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「100年はわからないけど、少なくとも10年は工事し続けているんだな」と僕は当時のことを思い出し、これはもしかしたら本当にずっと工事、いや進化し続けるのかもな、なんて思い直すと、自然とギターの音のする方へ吸い込まれるように歩き出す。もしかしたら、なんて思っていたのだ。偶然って続くものだろうしな、なんて。 路上ライブには人集りができていて、僕が近づく際も人の足がそこで止まっていた。知らない曲だが、その声は心無しかあの時の若者の声に似ている気がして、少し足早なる。景色が鮮明になるにつれ、まさか、本当に、と湧き立つ気持ちと共に鼓動が強くなるのが分かった。 曲が終わるとファンの人なのか、2人に女性がチラシを配り始めた。一人が通行人に、もう一人が観客にだ。僕もそれを受け取り、見て見ると、どうやらまだメジャーデビューはしておらず、自主制作CDを売っているらしい。チラシにはURLが載っており、どうやらネットでも彼らの動画が見れるとのことだ。先ほどまで歌っていた二人の男性は水を飲んでいる。僕の知らない人だった。もしかして、なんて期待していた自分が馬鹿らしくなる。二人の姿を見れば見るほど、あの時の若者とは似ていないし、声が似ていたのだって気のせいだったと思い始めた。そもそも偶然とは滅多に起きないから偶然なのではなかったか。 この後どうしようかな、と考えていると、茶髪の若者がギターを鳴らして次の曲の準備をし始めていた。まぁせっかくだし一曲くらい聞いてみるか、と思うと隣には高校生のカップルがチラシを受け取り、足を止めていた。 「CD出すらしいな、すげーな。ライブ見れるなんてラッキー」 「何言ってんの。別にデビューしているわけじゃないじゃん」 「え?そうなの?」 「ちゃんと読みなさいよ」 二人の会話が自然と耳に入り、僕はつい笑みを浮かべてしまう。そこにギターの音色が入り込み、人々の会話が止まる。
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