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「次の曲はオリジナルではありませんが」 茶髪の若者が話し出すが、隣の高校生たちの会話も同時に再開された。 「私、今日早く帰らなきゃならないから」 「え。そうなの?どこに住んでいるんだっけ?」 もしかしたら、この二人は付き合っているわけじゃないのかもしれない。 「うちの親父が好きな曲で」と茶髪の若者は話を続けるが僕はまだ高校生の会話に耳を傾けていた。 「言わなかったっけ?追浜だけど」 「え?そうなの」 僕も、え、そうなの?の2人を見てしまう。 「そうだけど」 「まじかよ。おっぱま、かよ!おっぱま!」と男子高校生は嬉しそうな声を出す。 「小さいころ知ってから好きなんだよ、その駅の名前。懐かしいなー」と嬉しそうな声を聴いて、ふと思う。もしやこの高校生はあの時の子どもなんじゃないかなと。彼女と出会ったあの時、おっぱま、と嬉しそうに口ずさんでいた子どもだと。 「なんか、親父は横浜駅の歌だ、って言っていたけど、違いますからね」 茶髪の若者がそう話すと、観客から笑い声が聞こえる。が僕は笑えなかった。え、どういうことだよ、と。それってあの曲?とあの曲の歌詞を思い出す。 『人生はまだまだ終わらない。だから僕は変わり続けることが必要なんだ。僕たちの関係が変わっても、関係が終わるわけではない』確かそんな歌詞だ。今思い出してみると結構いい歌じゃないか。それに今の僕にはぴったりでもある。 そうか、変わる必要があるんだよな、て変わっていかないとな、なんて思う。歌う人が変わっても、その歌は終わることはないし、年齢が変わってもその時の好きは終わっていない。それに。 「それでは聞いてください。『終わらないけど変わっていく』」  イントロが始まった。 ああ、この曲だ。としっかりと聴こうとしている僕の右横では「おっぱま、かー」と男子高校生が笑っていた。追浜のこと好き過ぎるだろ、と苦笑いする僕の左横から「追浜、で笑い過ぎだよね」と馴染みのある声が聞こえてきた気がしたが、その声も歌声でかき消された。
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