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とんとん、とドアをノックする音が聞こえた。 その音に意識は強引に現実に戻され、 一気に覚醒させられた。 僅かな変化でも敏感に反応してしまう、 子育てで身に付いた習慣だった。 でも今はちょっと憎らしい。 もう少しゆっくり起きたかった。 「はい」と返事をすると、 ドアを開けて澪くんが入って来た。 大好きな図鑑を胸に抱いている。 「どうしたの?」 そう聞くと澪くんは、私の目の前で図鑑を広げた。 何度も開いたからだろうか、図鑑はそのページから、 左右に分かれ開かれた。 色々なクラゲが書かれている。 でもどのクラゲも、多少色や形は違ったが、クラゲだった。 澪くんはその中でも特に、 特徴のないクラゲの写真を指差した。 ホウセキクラゲ そのどこにでもいそうなTHEクラゲくんには、 宝石らしき模様は見当たらなかった。 解説を見ると、夜になると宝石のように光るらしい。 でも実際に光って宝石のようなに見える写真は載っていない。 解説に目を走らせると、年に数回だけしか光らないらしい。 だからこそ、光っている時の写真を載せるべきだと、不平に思った。 「これ、光っている時の写真見たいよね。  なんで載せてくれなかったのかな」 そう言うと、澪くんは珍しくにっこりして「うん」と頷いた。 澪くんは下を向きながら、 小さな声で「見に行きたい」と言った。
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