第1章

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「ナツキ、たぶんこっちの方ばい。」 「うん、ちょっと待って…。」 羽田空港で遅い夕食を食べ終わったぼく達は、旅行カバンを持って外へ出た。 ふっと夜空を見ると星が見えて、ぼくは自然と涙がこぼれニヤけてしまう。 長崎の夜空と違わないはずなのに…。 嬉しさが湧き上がって、不思議と夜空が高く広く綺麗に見えた。 この理由は、初めて飛行機に乗ったからでも、初めて東京に来たからだけでも、説明は無理そうだ…。 お父さんと今、旅行をしている…。 ぼくにはそれが嬉しいみたいだ。 羽田空港から出たぼく達は…。 お父さんが事前に予約していたバスへと乗り込んだ。 これから向かう場所に行くには、この深夜便のバスが一番便利なんだそうだ。 今もぼくはドキドキしっぱなしだ。 けど、バスに乗り込んでからのぼくのドキドキは…。 羽田空港に到着したばかりのドキドキとは、明らかに違う種類へと変わっている。 なんだかバスの行き先に、平和島とかなんとか書かれていたけど…。 バス車内には、ピリピリとした張り詰めた空気がして、どうにも平和には程遠いような気がする…。 バスに一緒に乗り合わせてる人も、おじさんばかりで…。 周りの会話の端々に、ボートとか誰それのターンがどうのとか、ひきりに聞こえてくる…。 極めつけはコレ。 前の席の人が赤い鉛筆で、何かの紙に丸印をつけている。 もしかしてこれは…。 ある一つの予想が脳裏を横切る。 不安だ…、不安でしかたない…。 そうこうしていると、バスが目的地へと着いた。 外観から見て、ショッピングセンターか何かかな…?。 どんな所なんだろ?。 心から祈りながら、お父さんに連れられて行くと…。 そこは…。 24時間営業の天然温泉施設がある…。 BIGFUN平和島って所だった。 どうやら、ボーリング場やゲームセンターや映画館。 ドン・キホーテの入っている複合型施設のようだ。 「今夜はココで一晩過ごすばい。 さぁてナツキ、遅くなったけど風呂に入るか。」 「うんっ!!。」 ぼくの不安はひとまず解消した。 どうやらお父さんは、宿泊費を浮かす為にココへ来たようだ。 苦学生の貧乏旅行みたいだけど…。 まあ仕方がない。 車のローンとかも残ってるみたいだし…。 家の経済状況と明日からの旅行を考えると、不満を言う程でもない。 こういう旅行も、ぼくは楽しめる。 先ずはゆっくりと、天然温泉を味わおう。
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