第1章

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*******************  その日、島本健太は母の由里に手を引かれて、緩やかな坂道を上っていた。祖父が怪我をしたという知らせに、学校から帰ってきた健太を待って、由里は健太を連れて病院へ急いでいた。  祖父が入院している病院は小高い丘の上にあった。坂道を上りながら振り返ると、健太の目に青い海が広がっているのが見えた。 「おじいちゃん、大丈夫?」  声をかけながら病室に入ると、祖父は足にギプスを巻いてベッドに寝ていた。 「おー、健太。わざわざ来てくれたのか。」  祖父は細い目をさらに細めて迎えてくれた。 「お義父さん、びっくりしました。」  由里は心配そうな顔をして祖父と祖母を見ていた。 「ちょっと植木を切ろうと思って脚立に乗ったらコケちゃって‥ポキっと折れちゃっただけだよ。」 「本当、わざわざありがとうね。植木やさん呼んで切ってもらいましょって言ったのに、大丈夫なんて言って‥。もう歳なんですからね。気をつけてくださいね。」  祖母は呆れた顔で祖父を見ながら言っていた。 「おじいちゃん、すぐ治る?」 「もちろんだ。治ったら、また釣りに行こうな。」 「うん。」  健太は祖父の笑顔を見て安心した。 「健太、学校はどうだ?友達100人出来たか?」 「無理だよ。」 「最近は子供が少ないので、新入学生は84名しかいないんですよ。」  由里が健太の代わりに答えた。健太は祖父が元気なことに安心すると、病室の窓から外を見た。 ‥海だ‥  その時、病院に入る時、病室の窓からじっと海を眺めている少年を見たことを思い出した。 ‥あ!拓海くんだ‥  健太は、その少年が幼稚園の時同じクラスだった井野拓海だと思い出した。私立の小学校に行ったので、少し忘れかけていた。 ‥拓海君もお見舞いかなぁ。‥  健太は皆に気付かれないようにそっと病室を出て、拓海のところへ行ってみようと思った。  病室を一つ一つ覗き込みながら拓海を探すと、窓から外をじっと見ている拓海を見つけることができた。 「拓海君?」  健太は恐る恐る声をかけると、びっくりした顔で拓海が振り返った。 「僕だよ。覚えてる?」 「あ、健太君!」  拓海は少し青白い顔をしていたが、幼稚園の時と同じ笑顔で健太を迎えた。 「拓海君‥どこか悪いの?」  健太はパジャマを着て車椅子に乗っている拓海を見て、拓海が入院していることに驚いて聞いた。
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