0人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
*******************
その日、島本健太は母の由里に手を引かれて、緩やかな坂道を上っていた。祖父が怪我をしたという知らせに、学校から帰ってきた健太を待って、由里は健太を連れて病院へ急いでいた。
祖父が入院している病院は小高い丘の上にあった。坂道を上りながら振り返ると、健太の目に青い海が広がっているのが見えた。
「おじいちゃん、大丈夫?」
声をかけながら病室に入ると、祖父は足にギプスを巻いてベッドに寝ていた。
「おー、健太。わざわざ来てくれたのか。」
祖父は細い目をさらに細めて迎えてくれた。
「お義父さん、びっくりしました。」
由里は心配そうな顔をして祖父と祖母を見ていた。
「ちょっと植木を切ろうと思って脚立に乗ったらコケちゃって‥ポキっと折れちゃっただけだよ。」
「本当、わざわざありがとうね。植木やさん呼んで切ってもらいましょって言ったのに、大丈夫なんて言って‥。もう歳なんですからね。気をつけてくださいね。」
祖母は呆れた顔で祖父を見ながら言っていた。
「おじいちゃん、すぐ治る?」
「もちろんだ。治ったら、また釣りに行こうな。」
「うん。」
健太は祖父の笑顔を見て安心した。
「健太、学校はどうだ?友達100人出来たか?」
「無理だよ。」
「最近は子供が少ないので、新入学生は84名しかいないんですよ。」
由里が健太の代わりに答えた。健太は祖父が元気なことに安心すると、病室の窓から外を見た。
‥海だ‥
その時、病院に入る時、病室の窓からじっと海を眺めている少年を見たことを思い出した。
‥あ!拓海くんだ‥
健太は、その少年が幼稚園の時同じクラスだった井野拓海だと思い出した。私立の小学校に行ったので、少し忘れかけていた。
‥拓海君もお見舞いかなぁ。‥
健太は皆に気付かれないようにそっと病室を出て、拓海のところへ行ってみようと思った。
病室を一つ一つ覗き込みながら拓海を探すと、窓から外をじっと見ている拓海を見つけることができた。
「拓海君?」
健太は恐る恐る声をかけると、びっくりした顔で拓海が振り返った。
「僕だよ。覚えてる?」
「あ、健太君!」
拓海は少し青白い顔をしていたが、幼稚園の時と同じ笑顔で健太を迎えた。
「拓海君‥どこか悪いの?」
健太はパジャマを着て車椅子に乗っている拓海を見て、拓海が入院していることに驚いて聞いた。
最初のコメントを投稿しよう!