第1章

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「うん‥ちょっと心臓が悪いみたいなんだって。」 「そうなんだ‥痛い?、どこか苦しいの?」  健太は拓海の顔を覗き込みながら聞いた。 「大丈夫。検査で入院しましょうって先生に言われて‥」 「そうなんだ‥」  健太はなんと言って良いのかわからず窓の外を見た。拓海はいつも教室の隅で本を読んでいるおとなしい子供で、活発に走り回る健太と一緒に遊ぶことはなかったことを思い出した。 「海が見えるね。」 「うん、行ってみたいなぁって思って‥」 「行ったことないの?」 「行ったことあるけど‥小さい時だったから。」 「そうなんだ‥」  健太は拓海と並んで窓から外を見ながら、赤い電車が走るのを見つけた。 「拓海君。海に行こうよ!」 *******************  健太はランドセルを背負いながら、緩やかな坂道を駆け上っていた。 「行ってきます!」  朝、健太はいつものように家を出ると、集団登校の中にいた。しかし、途中で忘れ物をしたと上級生に言って家に戻るふりをして、拓海に会いに行った。祖父のお見舞いの時よりもウキウキした気持ちで坂道を駆け上っていた。  病院に入ってからは看護師に見つからないように、急いで病室へ向かった。 「拓海君!」 「健太君!」 拓海はいつものように優しい笑顔を健太に向けた。 「大丈夫?苦しくない?」 「大丈夫!」 拓海の言葉に健太は大きく頷いた。  健太はランドセルにしまっておいたバッグを取り出すと、ランドセルを戸棚にしまった。昨夜、貯めておいたお年玉を貯金箱から取り出し、タオルと一緒にバッグに入れておいた。  そのバッグと拓海のバッグを持って、健太は一足先に病室を出た。 「拓海君、気をつけてね。門のところにいるから。」 「うん」  健太はまた看護師に見つからないように、急いで外に出た。拓海は車椅子の練習のふりをして外に出ることになっていた。 「拓海君、お外に行くの?」  拓海が車椅子で出かけるところを見て、看護師の一人が声をかけた。 「うん。」  拓海は満面の笑みで答えると、エレベーターのボタンを押した。 ‥慌てない、慌てない‥  拓海は自分に言い聞かせるように小さく呟くと、エレベーターに乗って外へ出た。 「やったぁ!」  健太は拓海の車椅子を押しながら、緩やかな坂道を下って行った。穏やかに吹く風がいつもよりずっと清々しく感じられ、いつもの太陽が、今日はより一層暖かく感じられた。
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