第1章

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 今日は二人の秘密の冒険の日だ。健太は祖父のお見舞いに行くたびに拓海の病室に行き、二人で海に行く計画を立てた。どうやって病院を出ていくか、海までどうやって行くか、何を持っていくか‥小さい頭を付き合わせて考えていた。拓海は車椅子の練習をはじめ、看護師に怪しまれずに外へ出る方法を見つけていた。  坂の途中で拓海は着替えをして、二人は駅へ急いだ。 「健太君。僕、歩くよ」 「ダメだよ!拓海君は病気なんだから。僕が押すから座ってて!」  健太は拓海にはそう言ったが、車椅子を押すことが大変なことに初めて気づいた。道路がデコボコしていて、思い通りに車椅子が押せなかった。  歩くより時間がかかったような気もするが、無事に駅に着くことができた。バッグの中からお金を出して、三浦海岸駅までの切符を二枚買った。 「僕たち、どこまで行くの?」  車椅子を押す健太に駅員が声をかけた。 「三浦海岸まで‥」  健太は心臓がドキドキするのを必死で抑えながら答えた。 「二人だけで行くの?」 「うん。でも、おじいちゃんが待っててくれるんだ。」  健太がドキドキしているのを察して拓海が答えた。 「そうか。気をつけて行くんだよ」  駅員が車椅子を押して電車に乗せてくれると、電車は滑るように駅を出た。 「びっくりしたよ!心臓が飛び出ちゃうかと思った。」 「いろいろ考えたんだ。電車に乗ったら駅員さんが絶対に声をかけてくるって思って。」 「やっぱり拓海君は電車に乗って学校に行っているから、良く判るんだね。」  二人はこんなにワクワクドキドキしながら電車に乗ったのは初めてだった。窓の外の景色がいつもよりキラキラしているように見えたのも、秘密の冒険をしているからだろうと思っていた。  三浦海岸駅に着くと、駅員が迎えてくれた。 「連絡をもらったんだよ。」  そう言って、また駅員が車椅子を押して改札まで連れて行った。 「気をつけて行くんよ。」  三浦海岸駅の駅員に見送られて、二人は海に向かった。 「海の匂いがするね」  拓海が嬉しそうな声で話しかけてきたが、健太は車椅子を押すことに必死で、何も答えることができなかった。道路はさらにデコボコしていて、しっかり押していないと車椅子が倒れそうになるような気がした。海の傍の道路は砂が薄い絨毯のようが敷きつめてあるようで、さらに車の滑りを悪くしていた。 「波の音がするよね!」
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