Dystopia

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「この度はご愁傷さまでした」 制服を纏った男子生徒が、初めて覚えた言葉をたどたどしい口調で述べるが、言われた相手は真っ赤な瞳を誤魔化すように伏せたまま、小さくお辞儀をする。 「違法ドラッグだったらしいぜ」 「あいつの他にも通行人が犠牲になったってよ」 「あそこの道、あぶねーって有名だもんな。いつか誰か事故るって思ってけど、まさかこんな結末だとはな」 痛ましい事件は突如として楽園を襲った。 平日のある日、通学時間帯。1台の乗用車が対向車線から飛び出し、歩道に乗り上げたまま歩行者何人かを犠牲にして止まった時にはすでに遅く、この式の主役である人物は、嬉しそうに笑う写真とは対照的な表情を浮かべたまま胴体を電柱と車体に挟まれたまま絶命した。 「学校なんてダルイけどさ」 「なぁ」 「あんな風に一生行かなくて済むのは、嫌だな俺」 「だよな」 アダムとイヴは楽園を追われて初めて、そこが楽園であった事を知り、楽園へ帰りたいと願ったと言う。 だとしたら彼は願ったのだろうか。 最後に楽園(学校)で死にたいと。
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