Dystopia

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おかしいと感じる内に体も揺れ始める。そんなのあり得ない。一蹴するように結論付けた答えがはじき出されるも、何もかもがわからない状態では、何が正しいのかもわからなくなっていく。 だってそれ以外に音が聞こえる要素がない。人気だって全くないんだ。 傍にいる人がいないのに勝手に自分の体が揺れているように感じるなんて事はない。あるとすれば、今いるところが揺れているか、それ位しか考えられないではないか。 (助けて、嫌だ、誰か) 狂ってしまいそうな再度気持ちを整理しようと、飴玉を口に入れる。今度は梅の味。何となく口が酸っぱくて、唾液が無意識に出たが、すぐに口の中に溶けて消えてしまう。同じように考えたはずの思考も、溶けて消えていくかのように、焦りだけが残り、何1つ解決しない。 とにかく一度落ち着いて周りを確認しなければ、そう思った所で、自分の体が全く動かない事を思い出す。 正確に言えば、膝から下が何かの力で動かなくなっていて、両手と顔は動く。だからここが四角形の部屋である事が分かった訳だし、飴玉も食べる事が出来る。 (どうして?) 誰に尋ねるでもなしに言葉が頭を反芻するが、当然応えてくれるような存在はいない。 いつの間にか震える手を誤魔化すように、ポケットに残されていた飴玉を口に加えようとするが、手から滑り落ちるように、黄色の飴玉が転がっていく。 手から離れてしまったのに、何故かレモンの香りがさっきの2つよりもはっきりと鼻孔をくすぐると同時に、視線がぐるんと回転し、もう1つ忘れていた事を思い出す。 誰か助けてと叫んで倒した椅子の足、そこから伸びた鋼鉄の凶器が体を真っ二つに貫き、 見ようと思っても無意識に見ようとしなかった下半身は、そこには存在していなかった事を。 (何だよ) 夢なら、醒めてくれよ。
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