第1章

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「まだ決まってないみたいだけど、トランペットが吹きたいんだって」 「ふーん、それはいいな」旦那は笑いながらいった。「俺はユーフォニアムだったから、俺が教えることもできるな」 「そうなの?」知らない情報だった。彼はベース一筋だと思っていたからだ。 「ああ、吹き方があるんだが、管楽器は基本一緒だ。コツがあれば種類が変わってもできるんだよ。フルートみたいなのとはまたちょっと違うけどな」 「そうなんだ」  高校に入る前の悟の表情を思い出す。  中学に上がる頃に、私は悟と約束した。テニスをするのなら三年間しかできない、と。高校でのテニス部は絶対に認めないと断言した。だからこそ彼は真剣にやって全国大会まで行きベスト8に入賞できた。  テニスを辞めたくない、という悟の言葉を思い出し眠れないことがある。だが私にも保護者としての意地があるのだ。時限爆弾を抱え運動部に入った彼を三年も見守ることはできない。  私の心臓が持たないからだ。 「お前も今日は出かけるんだろう? 今日のお客さんは?」旦那は味噌汁を啜りながら訊く。
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