第1章

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リモコンを置くと、ゆらりと赤の一輪挿しのカーネーションが傾いた。彼らにプレゼントして貰った花だ。  すでにGWを過ぎ、季節は初夏に掛かろうとしている。 「あいつ、吹奏楽部で満足できているのか?」 「そうみたい。でも私が思っていた以上に吹奏楽ってハードみたいよ。走りこみもあるみたいだし」 「中学でテニスをしていたから大丈夫だろう」旦那はそういって新聞を読み始めた。  ……本当に緩いんだから。  私は溜息をつきながらブラックの珈琲を飲んだ。ミルクを入れた方が胃にいいことはわかっているが、こっちの方が美味しいので止められない。  私も人のことはいえないのだ。 「大丈夫、あいつはもう高校生なんだから」 「違うわよ。まだ高校生よ」  私の子供・悟は心臓に疾患を抱えていた。ファロー四徴(しちょう)症という病名だ。彼の心臓には4つの問題を抱えており、3歳を迎えるまでに3回の手術を要した。  一度目の手術は生まれて一週間後だった。私は生まれた子供を一度抱いただけで離れ離れになったのだ。 「そう簡単に何でも認めるから、悟が普通だと思ってしまうのよ」 「普通だろう?お前が神経質すぎるのさ」 「神経質にもなるわよ。ならない方がおかしい」
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