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りつははっと目を覚ますと、電車内の座席から飛び起きた。周囲はそんなりつの様子に驚くが、すぐに視線を戻す。りつは高鳴る胸を押さえ、座席に身を戻した。
今のは一体何? 夢?
りつは電車の天井を仰ぎ、目をつむると、何事もなかったことに安堵した。
りつは時計を確認する。先ほどまでの始発電車の時間ではなく、いつもの通勤時間だった。
りつは額の汗をぬぐう。
そして、はっと気付く。
りつの手には、先ほどのハンカチが握られていた。
「大丈夫?」
目の前で吊革につかまる女性が、様子のおかしいりつに声を掛ける。
りつは顔をあげ、その女性の顔を見て驚く。
その女性も意外そうに目を瞬き、「わぁ」と思わず声を漏らした。
そこには、行方不明と噂されている小林めいがいた。
めいは、りつの同期だった。
めいは、入社時から東京へ配属となったため、りつはほとんど会ったことはなかった。同期の飲み会の席でも顔を合わせる機会は何度かあったが、こうして顔を合わせるのは久々だった。
電車から降り駅を出ると、めいはりつに「ちょっと待ってて」と一声かけ、近くのコンビニに駆け寄った。コンビニから出てきためいはりつに駆け寄ると、ミネラルウォーターを手渡した。
「はい、これ。ほんと大丈夫?」
りつはそれを受け取ると一言礼を言い、唇を湿らせる程度に水を口に含んだ。
「顔色悪いよ」
めいは、心配そうにりつの顔色を窺う。
「大丈夫だと、思う」
「良かった」
りつはもう一口水を飲むと、めいの顔を見つめた。
りつは、めいに聞きたいことがたくさんあった。しかし、りつは何かを言いかけようとするが、言葉にならない。あ、その、えっと。口ごもることしかできない。
「変なの」
めいは笑顔を見せる。そして、何か言いかけるりつの言葉を待たず、りつの手を取ると、その手が握るハンカチと一緒に両手で優しく握りしめた。
「このハンカチ、どこにあったの?」
「え、ハンカチ?」
思わぬ質問に、りつはきょとんとした。
「このハンカチのこと。……ごめんね、失くしちゃって」めいが申し訳なさそうな顔をして謝る。
「なんでめいが謝るのさ。駅のホームに落ちてたのを見つけたの」
謝られたことに違和感があったが、りつは特に気に留めず返答した。
するとめいは、少し不思議そうな顔をした後、
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