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神に愛されなかった者達へ
(落ち着け、落ち着け)
心の中で何度唱えたかわからない呪文のような言葉を繰り返しながら、ポケットにわずかに残っていた飴玉を口に含み、噛み砕く。
頭のどこかでは、少しでも長く味わうために噛んではいけないのはわかっていても、普段の癖はなかなか抜けない。それに、そんな理性的な事を考えて実行していられる余裕もない。
口の中で砕けていく音と、どこからともなく聞こえてくる稼働音。耳が拾うのはこの2つの音だけで、後は何も聞こえない。いや、無駄に騒いでいる心臓の音が鼓膜を震わせているが、それを気にしてしまったら余計に落ち着きたくても落ち着けなくなってしまうだろう。
シャツの中に来ているインナーがやけに重たい。きっと緊張して汗を掻いているからなんだろうが、ここで思いっきり脱いだとしても騒ぐ人はいない。
いや、騒ぐどころか人がいないのだから、騒ぎようがない。
無人になった教室、4つある扉、何もかもがおかしくて頭がおかしくなったのかと錯覚しそうになる。
「思い出せ……思い出せ」
自分に言い聞かせるようにわざと言葉を口にしても、大き過ぎる独り言だと眉根を寄せる人もいなければ、同じように心配してくれる人もいない。
いつから、どうしてこうなったのか、どうして今ここにいるのか。思い出さなければいけない。
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