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『すいません。私を雇ってくれたのはとても感謝しています。でも、私は。今日限りでこの会社を辞めさせてもらいます』
そう書かれたノートを三人の前に差し出す明日香。
「ここで手打ちにしませんか。明日香さんの退職願いを受け入れてください。明日香さんはそれで今回のことはなかったことにしましょう。それでどうですか?」
四季の言葉に明日香は頷く。三人はうなだれるように頷くことしかできなかった。
二人連れだってオフィスビルを出る。明日香がノートを四季に見せてきた。
『ありがとうございます』
「今回は残念でした。でも明日香さんならきっともっといい就職先がみつかりますよ」
『そうでしょうか?』
「ええ。妹さんにあんなに好かれているんですからあなたはとてもいい人なんだと思います」
『妹?』
妹は何年も前にすでに亡くなっている。明日香はそう思って首をかしげる。
『でも、どうして私を助けてくれたんですか? それに犯人も初めからわかっているようでしたし』
「ええ。それはちょっとずるをしました。私はあの三人が犯人だということを初めから教えてもらっていましたから」
『誰にですか?』
「あなたの妹さんに。実は犯人も計画も妹さんに教えてもらいました。妹さんが私のところまできてあなたを助けてくださいと必死に頼んでくれたんですよ。だから私は今日、ここまできたんです」
『でも妹はもう何年も前に亡くなっているんですよ?』
「知ってます。むしろそうでないと私のところにはこないでしょうし」
苦笑する四季に明日香は首をかしげるしかなかったが、それでもそういう話でいいのかもしれないと思った。妹が私を助けてくれたのだとそれでいいと思えた。
なぜなら四季の後ろに一瞬笑っている妹の姿が見えた気がしたからだった。
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