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三人はもう明日香を犯人と決めつけて先ほどかデータを返せと迫っている。
『私は知りません』
手に持ったノートに書き込んで三人に見せるが首を横に振るだけだ。
「もう警察に突き出しちまおうぜ」
野口が石川に言う。明日香には聞こえていないらしくただ不安な顔をしているだけだ。
『データを返してくれないと私たちはお得意様との取引がダメになってしまう。これは会社に取っては大きな痛手で、この小さな会社が傾いてしまうかもしれません。そうなると私たちはあなたに損害賠償を訴えることもできるんですよ』
石川が私のノートにそう書き込む。
『いいですか。私たちは耳の聞こえないあなたを雇ったのは親切心です。それを裏切るなんて、恩を仇で返すということですよ』
明日香は何かを書き込もうとしてやめた。ノートを自分の膝の上に引き寄せてページを強く握りしめる。
やっと。就職できたのに。心配をかけたくないと思っていたのに。また両親に迷惑をかけてしまうかもしれないという罪悪感と石川の偽善者ぶった態度が悔しくて涙がこぼれる。
どうしてこんなことに。私は何もしていないのに。悔しくて。悲しくて。泣いていてはダメだと思うのに。涙が止まらない。弱い自分が嫌だった。でも、誰かに助けてほしい思う自分が嫌いだった。ただただ悔しくて明日香はボールペンでノートに書き綴っていた。
「誰か助けて」
「私が助けに来ましたよ」
突然、オフィスの扉が開いて女の子が仁王立ちしていた。
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