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「ウフフ...実は私、本人です。薪能の日、席に案内されたときにはとてもビックリしました。あなたはプロフィールに顔写真を出していましたからすぐにわかりました。...だからあなたにナンパされたときには『やったぁ!』って思いました、ウフフ...。改めまして、『秋月』こと田島真理愛(たじままりえ)です。」
彼女は笑いながら応えた。
世界人口の1/6が登録する世界最大のSNS(ソーシャル・ネットワークング・サービス)、「FRIENDS(フレンズ)」 そこは虚実入り混じったネットワーク空間である。
Friendsでは登録アカウントは本名と本人の写真掲載を推奨しているが、それぞれの事情により名前やプロフィール写真に必ずしも本人を載せるとは限らない。
そのため本名や容姿はおろかその他の個人情報も不明な人は多い。
だから通勤の車内で隣りあわせになった見知らぬ人がフレンズの友だちだったり、コーヒーショップにチェックインしたらフレンズ仲間が店内にいたなどということはそれほど驚くことではないのであるが、である...
正直会えるとは思っていなかった光太郎だが、目の前で起きてる現実は冷静に認識していた。
また一方では、別次元で起きた二つの現象が彼にとって嬉しい形に結びついたことで予期せぬ運命への期待感に弾みがついたのも事実である。
既婚者でありながら『陸奥(みちのく)の癒し系』と密かに好意を寄せていた「秋月」が目の前にいる。しかもそれが2か月前の薪能の晩に本人とは知らずナンパした女性となれば、光太郎が「運命のいたずらか神のお導き」と思ったとしても彼のことを軽薄な楽天家とは誰も呼べないだろう。
...とはいうものの果たして信じてよいものか...光太郎のそんな思いを察したのか真理愛は自分のスマホを出してフレンズにログインしてみせた。
「ねっ!? これわたし、秋月でしょ?」
「...あ、ホントだ! ...あのぉ、田島真理愛さん...秋月...さんって仙台にお住まいですよね...」
「えぇ、嫁ぎ先は仙台ですけど実家は金沢八景なので時々戻ってきてるんです」
「横浜出身っていうのは知っていたけど金沢八景なんですか!?」
「えぇ、だから秋月!(笑)」
「...仙台在住で秋月って名前から僕はお菓子の萩の月や松島の中秋の名月を勝手にイメージしてました!...あぁ、そうか!瀬戸秋月(せとのしゅうげつ)だ!」
真理愛はそれを聞くと笑いながら言った。
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