第1章

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「はい、大正解!...じゃあね、洲崎晴嵐(すざきのせいらん)!」 「うわっ、突然だな!(笑)じゃ...小泉夜雨(こいずみのやう)!」  光太郎は笑いながら続けた。  それから二人は交互に金沢の八景を上げていった。 「乙艫帰帆(おっとものきはん)」 「称名晩鐘(しょうみょうのばんしょう)」 「うふっ...平潟落雁(ひらがたのらくがん)」 「野島夕照(のじまのせきしょう)!」 「で、内川暮雪(うちかわのぼせつ)...で、おしまい(笑)!」  八つの風景を言い終わると二人は声を上げて笑った。  これらは金沢八景の地名の由来となった金沢の八つの景勝地の名称で江戸時代の歌川広重の浮世絵にも描かれてある。  真理愛は実家のある八景の景勝地を光太郎が諳んじてることで二人の距離が縮まった感じがしてとてもうれしくなった。 「光太郎さん、凄いわ!よくご存じ!」 「僕は北斎や広重の浮世絵が好きだから...広重が金沢八景を描いているでしょ!?...っそれより真理愛さんこそさすが地元だけのことはある!」 「私は、ん十年前に小学校で憶えさせられましたから!(笑)」  昔のこととはいえ真理愛の口から八景の景勝地の名前がよどみなく出てくるほどの知性や「秋月」という抒情的なネーミングのセンスに感心した光太郎も真理愛への距離が一気に縮まった気がした。  それにしても昨夜もその前の晩もフレンズで「秋月」とコメントのやり取りをしていたのに何も言わないなんて...そんな光太郎の思いに気づいたのか真理愛は笑いながら話し始めた。 「私、偶然にもあなたにナンパされたでしょ!?(笑)この機会を逃したらあなたとお会いすることは、もうないかもしれない...そう思ったからお返事しちゃいました。この2か月、本当はあなたに喋りたくてウズウズしてました。でもそんなことしたらせっかくのドラマチックな出会いなのに面白くないでしょ!? もう我慢するのが大変でした(笑)」  彼女は小さないたずらが見つかった子供のように軽く肩をすくめながら舌をペロッと出した。 「あんなに毎日のようにフレンズでコメントのやり取りしてたのに...真理愛さんも人が悪いな(笑)」 「エヘヘ...ごめんなさい...。でも、光太郎さんだってズルいわ!?」 「えっ、僕が!?」 「だって、薪能でナンパした私とフレンズの秋月の二人に会えたでしょ、私は光太郎さん一人なんだもん!」
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