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真希はテーブルの上の本を手に取った。
「僕も読みましたよ。好きなんですか?村上春樹。」
と、イルカはビールを一口飲む。
「うーん、前まではあんまり興味なかったんですけど。」
真希は本をテーブルにおいて、グラスを手に取って一口飲んだ。
「そうなんですか。そういえば、改めまして、若林って言います。」
イルカは軽く頭を下げた。
「高村と言います。改めまして、よろしくお願いいたします。」
真希もお辞儀をして顔を上げると、若林と目が合った。二人は同時に微笑んだ。
5月3日(火) 葉山マリーナ
真希は駐車場に車を停めた。鍵を閉めてマリーナの中に入り、中華料理店へ向かった。店員に席まで案内されると、既に両親が座っていた。真希が母の隣に座ると、
「お疲れさま。車、すぐに停められた?」
母が心配そうに尋ねた。
「うん、大丈夫だったよ。」
と、真希が父の前に置かれたビールに目をやったので、
「帰りは私が運転するから飲んでいいよ。」
と、母は店員を呼び止め、ビールを追加した。真希はスマホを開いて、ここに来る前に寄って来た横須賀しょうぶ園で撮った写真を母に見せた。しょうぶ園から葉山マリーナというコースは、真希が子供の頃から毎年恒例で、昨年までは祖母も一緒だった。
「そうだ、お兄ちゃんの彼女、どんな感じだった?」
真希はスマホをバッグにしまいながら尋ねた。真希には三才年上の兄がおり、その兄が会わせたい人がいると突然言ってきたため、両親が昨日会ったのだそうだ。会わせたい人というのはもちろん女性だった。母が答えようとしたところで、店員がビールを持ってきたので、ひとまず三人でグラスを合わせた。もちろん、母はアイスウーロン茶。
「どうって、まあ、普通のお嬢さんだったわよ。」
母は素っ気なく言った。
「普通って、顔は可愛かった?」
真希は母の横顔を見つめながら、ビールを一口飲んだ。
「だから、普通。ブスとも言えないし、可愛いとも言えないし。」
母の言葉に、真希は吹き出してしまった。
「お母さん、やっぱり手厳しいね。」
「他人のこと、ブスだの可愛いだの言えるのか。」
それまで黙っていた父が口をはさんだ。ちょうどその時、店員が前菜を運んできたので、父は焼酎の水割りを注文した。
「客観的にって意味よ。じゃあ、あなたは美人だと思ったわけ?」
母の質問には答えず、父は残っていたビールを飲み干した。
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