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「これが、綾瀬君のレコードです」
レコード?昔、音楽を聞いていた、丸い板のようなものか。
「これは、暫し保存しておきます。説明は後にして、明日も運転が長いですから、今日は寝ましょう」
綾瀬の姿が消えていた。俺は、蝋燭を消すと、部屋に戻った。一体、何が起こったのだろう。
「まあ、簡単に言うと、綾瀬君は異世界人の名残を持つ物で、記憶を記録し続けていたのですよ。それは、元の世界が回収を進めています」
人は、知らない記録に接触すると、脳が理解できずに、理解できないものとして処理するらしい。幽霊だったり、宇宙人に遭遇したと処理されるのだそうだ。
綾瀬の記録が、何かの理由で移動していたということになる。
「でも、今回、儀場が絡んでいるので、すぐに記憶を、あちら側に帰せません」
布団に潜ると、あれこれ考えてしまっていた。
第五章 成長してゆく仮設
綾瀬の幽霊と会った日の朝、眠い目を擦りながら目覚めると、祖母の葬儀に集まった親類がもう到着していた。
田舎の朝は早い。実徳は慣れたもので、親類と和やかに寛いでいた。
近所のせいなのか、小学校の同級生などもやってきていた。
「あ、弥吉君」
指さされると、自分がまだ着替えていないことに気がついた。
「あ、ごめん。着替えてくる」
急ぎ喪服に着替えると、襖を取り大広間のようにした仏間に入った。
「弥吉。相変わらず、かっこいいよね」
「どうしたの、葬式に来るなんて」
近所の幼馴染は、父親の体調が悪く代理で来たらしい。
「おい。住所を教えてよ。遊びにいくからさ。田舎に住んでいるとさ、時折、息が詰まるよ。弥吉は分かるよな。その姿のせいで、今日も、あれこれ、じろじろ見られているしさ」
不審そうに見る視線には慣れている。でも、慌てずに、のんびりとお茶を飲む。
噂を避けて隠れるのは止める。夢の中で、誓ってしまった。
「まあ、俺は生まれつきだからさ。慣れたよ。遊びに来いよ。泊まっていって。貧乏生活で驚くよ」
和やかに話し込んでいると、昔の仲間が集まってきていた。
「弥吉、本当、見た目は変わらないよね。そっちで女性達が、モデル?役者?なんて騒いでいたよ」
どうして男ばかり集まるのか。その中に、同じ高校に進んだ、友人も見つけた。
「津田!」
立ち上がって津田を追いかける。焼香を済ませて、津田は帰り支度をしていた。
「遊部?帰っていたのか?」
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