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車の運転を始めると、この車、非常に乗り易かった。何より、気持ちのいい加速で、滑るように走る。
「アパートに寄ります」
これで、俺の住居が分かってしまったが、喪服を持って来なければならない。他に、スーツなどの着替えも用意した。会社員をやっていたので、スーツはそれなりに揃えている。
「営業だったのか。姿にインパクトがあって覚えやすいし、丁寧で、それなりに売れたでしょう」
でも、短い期間で終わってしまった。
荷物を積み込むと、高速に乗った。俺の実家は、結構、離れている。
高速を走っていると、夜のせいか道は空いていた。俺の実家は、かなりの田舎なので、高速から降りてもかなり走る。高速のうちに、疲れたら仮眠しておくほうがいい。
「綾瀬君は、多分、通過者であったのかもしれないよ。記憶を通過させていた者。前世から繋がる何かを持っていたと考えられる」
通過者には、霊能力者と呼ばれる者も多かったと、百舌鳥は説明してくれた。通過者は、前世からの記憶や、能力のせいで、分からない事まで、知っている。その辻褄の合わない現象を、人の脳は埋め合わせて、記憶ができる。その時に、神や仏、悪魔や天使、もしくは幽霊などの、世界に存在しないもので埋め、合わせてしまうことがある。
「綾瀬は、幽霊も悪魔も見ていませんよ」
「それは、君が前にいたからだよ。不思議なままで、存在しているから、ありのままで存在していいと思える」
馬鹿にされている気がする。
「生葬屋のほかに、回収屋というのもあってね。そっちは、俺にするとえげつない」
無理矢理、記憶を再生させて、回収してゆくのが、回収屋なのだそうだ。
第三章 嘘なのか世界なのか
サービスエリアで二時間ほど仮眠して、インターを降りた。これから下道を、三時間程走る。
車で雑談していると、百舌鳥の人間性というのも見えてきた。百舌鳥は、本当に食にも服にも興味はなかった。服は、親父が着ていたものを、そのまま着ているらしい。
その服は全て、仕立屋によるもので、かなり裕福な家庭で育ったようだった。
百舌鳥は、進学校から有名大学に進み、エリート商社マンであったらしい。毎日が秒刻みに忙しく、それが、当たり前だと思っていた矢先に、大切な者を失ってしまった。
「彼女は、おいしい食べ物が幸せで、服が大好きであった。それが突然、消えてしまった」
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