第1章

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 諦めかけて電話を掛けると、やっと繋がった。 「兄さん?」 「うん。実家の近くまで来たけど、葬儀場はどこ?」  電話の先で少し慌てた様子があった。 「家で葬儀をしている。今日、通夜だよ」  このまま実家に向かえばよいのか。 「兄さん、今日は、実家に泊まるよね?今、部屋を用意するから」 「いや、会社の人も一緒だから、通夜に出たら、町まで戻ってビジネスホテルを探すよ」  電話だが、俺の話を聞いていない感が漂っている。  電話の向こうで、兄さんが帰ってくるとか、布団とかの言葉が飛び交っていた。 「しかし、田舎だね」  百舌鳥の言葉の通りに、ここにはコンビニもない。遠くに山が見える、付近は畑ばかりが広がっている。民家の周囲には、生垣を通り越し、森のような防風林?がある。 「はい、ここで、この姿は目立ちましたよ」  家から駅まで自転車で三十分。それが、近いねと言われるくらいの田舎であった。三十分、最速で走ってのことだ。  もうすぐ山という地点に、俺の実家はあった。でも、この先にも数件、民家がある。  路上駐車というのか、畦道駐車をすると、実家に入ってみた。服を着替えたいが、路上で着替えていたら目立つだろう。  実家は通夜のせいか、幾人もが出入りしていて、その人々は一様に俺を見た。見てから、ヒソヒソと話し込む。  広い庭から、祖母の葬儀が見えていた。しかし、普段着では確かに目立つ。 「兄さん!」  こいつは誰だ?声からすると、実徳なのだろうか。しかし、俺の背をはるかに超し、どこかのアスリートのように日に焼けていた。例えるのならば、高校球児にも似ていた。  俺も背は低くはないが、それでも、頭半分は越されている。 「実徳、どこかで着替えをしたいのだけれど」 「それならば、こっちです」  俺と、百舌鳥を交互に見ていた。 「実徳、今、高校三年か?大きくなったな」  五年会わなかったが、随分と姿が変わった。 「兄さんは、最後に見たままですね」  最後?俺が高校三年の時か。それから、俺も大人になったと思うが、実徳には、そのままに見えるのか。  通された部屋で、喪服に着替えると外に出る。そこでやっと、両親の姿を見つけた。 「弥吉、おかえり」  名前を呼ばれるのは、久し振りの気がする。 「お久しぶりです」  話す事は何もない。そもそも、五年もここには戻っていなかった。 「兄さん、喪服、持っていたのか」
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