第1章

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 まあ、持っていた。あまり言いたくないが、これは大学でバイトしていた時に、貰ったものであった。 「しかも、ブランド?」 「……服のモデルをしていた時に試作品?を貰った」  モデルと言ってもカタログの写真で、ファッション誌なのではない。 「兄さんは見た目がいいからね」  ため息をつかれてしまった。  百舌鳥は、余り喋りたくない俺の代わりに、両親から質問責めを受けていた。  百舌鳥は、当たり障りなく、俺は営業で現地視察などをしていると説明していた。案外、商社マンであったせいなのか、百舌鳥は話が上手かった。しかも、百舌鳥の兄が、公務員で外交官と分かると、すっかり、両親は百舌鳥を信用していた。  俺は、祖母に線香をあげると、用意されていた昼飯を食べた。五年という月日が嘘のように、実家は、そのままになっていた。  土間を超えた先にある台所から、下駄を履いて外に出ると、裏山もそのままになっていた。  裏山には、大きな岩があって、その岩の下に俺は綾瀬の品を置いていった。  草に覆われていた岩を見つけると、その下を探った。 「あったか……」  小学校で取ったメダル。綾瀬と刻まれている。首に掛ける紐は朽ちてしまったが、メダルは磨けば光る。これは、チームでメダルを取り、そのメダルに記念に名前を刻んだものだ。綾瀬と俺は、そのメダルを交換していた。  その時は、一生親友でいられると思っていた。懐かしいが、思い出すと、何故かとても辛くなってくる。俺は、その後を知っているからなのだろう。 「ん?」  草むらを歩く音がして、俺は岩の後ろに隠れた。こんな場所に誰か来るなんて珍しい。 「兄さん?」  そこには、心配そうに俺を探す実徳の姿があった。 「実徳?」  俺が、岩から顔を出すと、実徳がほっとしたような顔をしていた。 「兄さん、危ないよ。岩が崩れたり、変な人がいたら、どうするの?」  人が通るから痴漢もいるのだろうし、こんな山の中では、偶然でもない限り人には会わない。 「あのな、家の裏山でしょう」  岩の上に座ると、実家の屋根を見下ろす。昔も、嫌なことがあると、ここに寝転んでいた。 「その、メダル……」  実徳が、俺の手からメダルを取って見ていた。 「綾瀬さんの名前?」 「昔、交換して持っていた。でも、俺は、綾瀬が死んだ時に持っているのが辛くなって、ここに埋めた」
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