第1章

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 田舎の空は、高くて広い。コンビニも無い場所であったが、それなりに暮らしていた。  実徳が俺の横に座ろうとすると、岩が崩れて実徳ごと落ちた。 「痛い……」 「大丈夫か?」  岩は割れたというよりも、そこに置かれただけの状態であった。もしかすると、よく俺が枕にしていた岩かもしれない。  崩れた岩の下に、何か置いてあった。実徳が泥だらけの物を拾い上げる。 「兄さん、ここにもメダルがあるよ」  真空パックにされたメダルであった。俺が手に取り名前を見ると、俺のものであった。 「どうして、ここに?」  俺が、最後にこのメダルを見たのはいつだったのか。綾瀬が持っていると信じ、考えたこともなかった。  綾瀬はこの岩を知らなかったはず。俺は、一人で、ここで寝転んでいた。では、誰がここにメダルを置いたのか。 「まあ、とにかく、こっちの綾瀬のメダルは綾瀬に返すよ」  綾瀬の両親も、このメダルを取った時に、綾瀬がどれだけ喜んだのか覚えているだろう。綾瀬の仏前に置いて欲しい。 「……このメダルを返してくる」  俺も、綾瀬に会いに行く理由を見つけられて、少しほっとしていた。 「俺も行く」  俺は、綾瀬の家に嫌われていた。塩を撒かれる可能性もあり、実徳に見られたくない。 「いや、一人で行くよ」  実徳も、俺の実情を僅かに理解していた。 「兄さん、俺も行きます!」  実徳、頑固な性格に育っていた。  喪服のまま道を歩き、綾瀬の家へと向かってみた。綾瀬の家まで、一KMと少し離れているが、車で行く気分でもなかった。  俺に問題がなければ、綾瀬と俺は幼馴染で親友でいられたのかもしれない。  本当の子供なのか、両親に疑われ、親戚一同の立ち合いのもと検査を行った。実子であったのだが、検査をしたということが、わだかまりを残した。  そんな騒動もあって、近所の人も俺を避けていた。  しかし、相変わらず、畑と山ばかりで、民家が増えた様子もない。多少、変わったといえば、歩道のある道ができた。  山に向かう斜面を登ると、綾瀬の家が見えてきた。この急な斜面に、綾瀬は落ちた。  城の城壁のような石垣はそのままだが、道路淵にあった木々は全て無くなっていた。  立派な門を潜ると、庭に綾瀬の母親がいた。 「あの、遊部です」  覚えているだろうか。  農作業の手を止めて、綾瀬の母親が奥に声を掛けようとした。
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