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「いや、これ渡したいだけなので、誰も呼ばないでください!」
綾瀬の祖父は、俺を、主にこの姿を毛嫌いしているのだ。何度、塩を撒かれたのか、数えられもしない。
混血ではないと言っても、綾瀬の祖父の偏見は酷いものであった。
「これ、小学生の時の綾瀬君のメダルです。あ、あの、盗んだとかではないですよ。交換して持っていただけです」
野菜の仕分けの最中であっただろうか。
「どうして、返すのですか……?」
仏壇に線香をあげたかったが、だんだん、それ処ではなくなってきた。
「もう、この土地には冠婚葬祭でしか来ないでしょう。だから、早く、忘れない内に返したかったのです」
どうして、綾瀬の母親は泣いているのだろうか。俺は、何か悪い事を言ってしまったか。
「何だ、どうした?」
奥から、綾瀬の父親が来て、泣いている姿と俺を比べて、激怒していた。
「すぐに、帰ります!二度と来ませんから、安心してください」
綾瀬の父親は、喪服を着ていた。もしかしたら、祖母の通夜に行っていたのかもしれない。祖母の通夜で、メダルを渡せばよかったか。
「綾瀬!メダルは返した。さよなら」
走って帰ろうとすると、綾瀬の母親が追いかけて来た。
「ごめんなさい!父さんも、これでも、反省しているの。貴方に冷たくしていて、いつも追い払ってしまって。でも、匠海(たくみ)が幽霊になってまで遊部君を探していて、後悔したの!」
俺が立ち止まると、綾瀬の母親が追いついてきた。
「綾瀬が、何か言っていましたか?」
俺達は、綾瀬の家族が俺を毛嫌いしていたので、表立って友達という素振りをするのを、学校でも避けた。
綾瀬は、きっと責められる俺を守ろうとしてくれていたのだと思う。
「……何も言わなかった。でも、匠海の端末にパスワードも付けて隠していたファイルがあったのよ」
端末は、綾瀬の姉が使うと言った。そのファイルをどうしようかと、専門家に開いてもらったらしい。
そのファイルには、俺と撮った綾瀬の写真が保管されていた。
「……母親の感でしょうね。息子の好きな人は、この人なのだと理解しまいした。ただ、見ていたい、一緒にいたい、それだけの思いの写真ばかりでした」
綾瀬の母親が、俺の両腕を掴んでいて離さない。
「……一緒に、いたかったでしょうに……」
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