第1章

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「一緒にいましたよ。隠れて、親友でしたよ。しょうがなかったですよ。俺の、こんな胡散臭い容姿では、皆、関わりたくなかった」   日本人の両親に、外国人にしか見えない子供が生まれていたら、関わりたくなかっただろう。 「線香、あげていってください」  この家での扱いは、俺のトラウマになっていた。塩をかけられたり、雨の日に、遊びに来た仲間はそのままに、俺だけ、荷物ごと外に放り出されたり。主に、綾瀬の祖父であったが、それでも、子供心に怖くて辛かった。 「ダメなのです。俺、ここに来るだけで精一杯で、今も手が震えています」  冗談でもなく、両手が震えて止まらないのだ。 「で、でも、匠海は今も貴方を探しています」  どうして探しているのだ。この家にも、何かあるのか。 「何かありましたか?」  余計な事に首を突っ込みたくないが、つい、言葉に出てしまった。  俺のメダルが岩にあったこと。それは、二重の不思議であった。綾瀬は、その岩を知らなかったこと。メダルが交換されているのも、二人しか知らなかった筈であること。 「息子の幽霊が出るのです。全身に枝が刺さったままで、彷徨っています。息子の幽霊は、アソブ?アソブ?と問いかけるのだそうです。他の人は遊ぶ?と聞いている、遊ぶと答えると連れていかれるなどと、噂しています。アソブは、遊部さんかと聞いているのです」  俺は、ここにいる。 「俺が、墓にも仏壇にも行かないせいではないかと、疑っているのですか」  ならば、線香をあげてゆくしかないか。 第四章 夢で出会う  純和風の家屋というよりも、農家の家であった。縁側は広く、庭に面している。土間から仏間に入ると、綾瀬に線香をあげた。  大きな仏壇には、先祖代々の位牌が置かれていた。綾瀬のものよりも、新しい位牌もある。 「おじいさんは、二年前に亡くなりました。その前の年に、おばあさんも亡くなってね。今は、長女が近所に住んで、農家を手伝っているの」  物音に、俺が飛びのくと、綾瀬の父親が立っていた。 「……だから、おじいさんはいませんから、突然掴まれて外に投げられるということは、なくなったのですよ」  俺のビビリ具合で、実徳も話が真実なのだと理解していた。 「匠海の部屋はそのままなのですけどね、時折、物音がするのですよ。すると、匠海が死んでいるなんて忘れて、うるさいなんて叱ったりしてね……」
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