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綾瀬の部屋は、中学以来、行ってはいない。
「遊部さんの家には、匠海は遊びに行っていたのですか?」
「来ていませんよ。俺、庭に自分で部屋を建てて住んでいたのですけど、犬小屋なみの出来だったので、暑い日、寒い日など、家に帰っていませんでしたから」
綾瀬の母親が、お茶を持ってきていた。
「どこに泊まっていたのですか?」
「従兄弟のアパートですよ」
実家は駅からも遠いので、従兄弟のアパートが便利であった。従兄弟のアパートは、友達も彼女も連れ込まないという条件で泊めて貰っていたので、綾瀬とは学校でも部活時のみの付き合いではあった。綾瀬と俺は、放課後もつるんでいたということはない。
綾瀬の両親が、顔を見合わせていた。
「もしかして、匠海はそのアパートの位置を知らなかったのですか?」
アパートに帰ると言っていたので、実家に戻らない日があることは知っていただろう。でも、住所は教えたことはなかった。
「教えていません」
「ああ……」
それで、綾瀬の両親は合点がいったらしい。
「匠海は、遊部さんが家にいないので、アパートを探しているのですか」
幽霊は、俺の実家に近寄るように目撃され、次に、駅に向かって目撃され始めた。
幽霊も、探すということがあるのか。
「……もしかして、俺の今の住所を置いていった方がいいですか?」
でも、今のアパートに来られても困る。綾瀬は、歩いて来るのだろうか。歩きならば、ここからは、かなり離れているので、到着までには数か月はかかるのではないか。
「……そうして貰えますか?多分、匠海は言いたいだけなのですよ。我が家も納屋の二階を改造して、匠海の部屋を造りましてね、引っ越すところであったのです。遊びにきて、泊まって欲しかったのでしょう」
それから、延々と一時間半ほど、綾瀬の話を聞かされてしまった。付き合わされた、実徳は途中で眠っていた。
やっと帰れる段階では、足が痺れて感覚が無くなってしまっていた。
「お邪魔しました」
土間から外に出ると、大きな門を潜り、急な坂道を降りる。
足が痺れていたせいで、坂でコケてしまうと、実徳が俺の腕を掴んで支えていた。
「兄さん、危ない」
平気だと、手を払おうとして、再びコケてしまった。
「前を見て歩いてください」
前を見ていたが、後方から視線を感じたのだ。振り返っても誰もいなかったが、やはり、見られている気がする。
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