第1章

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 確か同じ高校の後輩であった。電車で見かけた事がある。確かに、綾瀬と親しくしていたので、俺も覚えていたくらいだ。綾瀬と、付き合っていたのか。 「彼が綾瀬君の願いを叶えようと、儀場に頼んだ可能性があります」  でも、待てよ。俺の記憶では、彼は綾瀬の後に死んでいた気がする。 「ああ、思い出しましたか?この子は、綾瀬君の後に、病死しています。悪い噂の多い子で、綾瀬君の存在が生きる希望であったようですよ」  風邪から肺炎になり、そのまま、インフルエンザになったとか、色々な噂が流れていた。悪意の噂が多いのは、あまりいい噂のない少年であったせいだ。万引き常習犯、引ったくりをしたとの噂、女のヒモだとか、そんな影の噂が多かった。 「悪い噂ばかりでしたよ」  優しい顔立ちで、どうして、ここまで悪意に満ちた噂が多かったのか。 「彼は隠していた。その隠しが、周囲に伝わる。隠す事を暴こうと噂が蔓延してゆく」  何を隠していたのか。 「彼は、暴力団幹部の愛人の子供でした。本妻に殺されかけて、田舎に逃げていたのです」  働いている様子のない母親と暮らしているのに、裕福であったことで、色々な噂が飛び交ったらしい。 「噂に苦しむところも、遊部君に似ていますね」  そこで、百舌鳥が楽しそうに笑っていた。 「でも、処女ではなかったですからね。儀場はどこまで願いを叶えたのでしょうか」  メダルは何の意味があったのか。俺は、真空パックされたメダルを出してみると、眺めてみた。 「この子の処女は綾瀬君が奪っていたのでしょうかね。多分、綾瀬君がこの子に優しかったのも、この子が体を奪われたのも、遊部君の代理だったでしょうにね」  代理なんてない。綾瀬は、そんな奴ではなかった。  よく見ると、厚手の真空パックのビニールに薄っすらと文字の跡が残っていた。メダルの上で、メモでもしたのだろうか。 『必ず会いに行く』  メダルには、そう書かれていた。  でも、分かる。俺も、綾瀬に会いたい。突然、居なくなってしまって、俺は、綾瀬がもういないと実感できなかった。 「綾瀬君の目撃は、二時から三時にかけてなので、眠ります」  布団を被ると、灯りを消した。  夢だと分かる世界で、俺は、高校生の綾瀬を見ていた。  綾瀬が生きているのか、腕時計の日付を見ると、四月になっていた。教科書を確認すると、三年のようだ。
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