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すると、俺はこの後にインフルエンザにかかり学校を休み、綾瀬は事故死する。
古い校舎は煉瓦も部分もあり、古くからの名門高を象徴していた。いつもの教室で、いつもの会話、たった三年間であるのに、この時の三年間は一生持ち続ける。
夢なのだとは分かっているが、綾瀬に梯子を上るなと伝えたい。綾瀬を探して見つめていると、声が聞こえていた。
「そんなには変えられない。君の答えだけなら、伝えられるよ」
声の主を見ると、綾瀬と付き合っていた少年であった。
「君は……」
少年が笑っていた。
「新庄だよ。ここは夢の世界で、俺の姿は、今は誰も見えていない。ここに居なかった存在だからね」
新庄は、自分が死んだ事も知っていた。その前に、儀場に願いをかけたのだ。
「俺はね、綾瀬先輩の前に儀場さんと関係を持ったように過去を変えた。そして、願ったよ」
何を願って変えているのだろうか。
「綾瀬先輩が生きている世界。俺は、綾瀬先輩が死んで、絶望したからね。もう、絶望したくなかった」
過去を変えているのか。
「行って。何かを変えて」
背を押されて、俺は歩き出していた。
「綾瀬」
俺が声を掛けると、一瞬、綾瀬が驚いていた。教室で、俺達が話す事など、殆どなかった。
「どうしたの、遊部……」
「GW明けに修学旅行だろ。一緒のグループになろうか?最後だし」
綾瀬は固まってから、何度も頷いていた。この高校、進学校なのに、修学旅行が遅かったのだ。でも、この就学旅行の前に、綾瀬は死んでしまっていた。
「いいのか?また、俺の両親に何か言われるよ……」
「言われてもいいよ。DNAの鑑定書をコピーしたから、文句を言われたら説明するよ」
綾瀬が嬉しそうに笑っていた。そうだ、隠さなくても良かったのだ。文句や嫌味を言われても、気にしなければ良かったのだ。
「遊部。俺の部屋、受験勉強するからってさ、納屋の上にリフォームした。引っ越したら、遊びに来いよ。今度は爺さんが来たら、絶対に追い返すから」
俺は、この引越しの予定も、今日まで知らなかった。高校生時代は、引っ越しを知っていなかったのだ。
「母屋と別棟だよね。雨の日とか泊めて欲しいよ。雨音がうるさくて」
「本当に……泊まる?」
少し、綾瀬の声が震えていた。俺は、中学以来、綾瀬の家にも近寄らなかったのだ。
「ダメか?」
「いいよ!一緒に勉強しよう」
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