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周囲が俺達の会話を、不思議そうに見ていた。同じ中学出身以外は、俺達に接点はないように思われていたのだろう。
目が覚めると、深夜の二時になっていた。親友というのは、何であったのだろうか。学校でも接触せず、互いの家の行き来もやめた。だんだん互いの事は分からなくなっていた。どういう意味で、俺は親友だと思っていたのだろう。
暫く天井を見ていたが、綾瀬の幽霊が来る時間ではないだろうか。
起き上がると、廊下に抜け、庭に出てみた。すると、百舌鳥が先に庭に立っていた。
暗い庭の中に、ランタンのような灯りが光っていた。他に、蝋燭も数本ほど、燃えていた。
何かが擦れる音がすると、黒い影が庭に浮かんだ。
俺は、その影に近寄ってみた。
綾瀬は、体中に枝の刺さった状態で、目からも枝が見えていた。これでは見えず、誰か分からなかったのだろう。
「綾瀬、廃材でさ、部屋を造った。俺、家に居場所がなくてさ、自分で作れば、そこにはいてもいいかなって思ってさ」
蝋燭が、庭の木々を光で揺らしていた。家族の誰かが起きてきたのか、通夜の提灯に火がともる。
光に浮かびあがる綾瀬は、幽霊ではあるのだが、消えはしない。光で綾瀬の姿が、より見えるようになっていた。
「親父がさ、黙って、そのボロ家に電気を引いてくれたんだ。俺は、親父は、俺のことを息子じゃないと疎んじているから、一生、何もしてくれないと思っていた」
誰にも言ったことのない、俺の本音であった。多分、綾瀬にも言うつもりはなかった。
「それでね、自分の気持ちにケリがついた。誰も恨まず、この家を出てゆこうって」
振り返って家を見る。出てゆくときも、見納めだと家を見た。
「なあ、綾瀬。俺にとって、綾瀬は唯一の存在だったよ。一人だけだったからさ、友達になろうって言ってくれたのって」
だから、綾瀬の笑顔が見たい。綾瀬に見つめられたい。
俺は、綾瀬の枝を払って地面に落としてゆく。目の枝を取ると、綾瀬の目が俺を見つめていた。
「綾瀬、大好き」
過去系なんかではない、今も友人として好きであった。綾瀬が笑うと、もう全身の枝は消えていた。
「遊部?」
「うん。そうだよ。綾瀬……」
綾瀬の腕が、俺を包む。抱き込まれて、温かい事に驚く。幽霊というのは、冷たいのではなかったのか。
「記憶、回復。回収しました」
百舌鳥が、小さな光を手に持っていた。
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