第1章

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「ええと、営業職なので、その見た目はちょっと困ります」  次の就職先を探す日々であったが、中々、決まらない。  面接に幾度も行くが、いい反応も無かった。  その日も、面接に行ったが、断られてしまった。がっかりして、自炊する気もおきない。スーパーで弁当を買って帰るか。入ったスーパーでは、弁当が売り切れていた。 「弁当はなしか……」  レトルト食品を購入してゆくかと、場所を変えようとすると、小さな子供が泣いていた。 「どうしたの?」 「○○△△△」  小学一年生くらいか。母親を探しているらしい。 「そっか、じゃ、多分、レジの方かな……」  お菓子を見ていたら、母親が居なかったという。レジに行ってみると、慌てた母親が店員に必死に喋っていた。しかし、やはり、言葉が通じていなかった。 「お子さんはここですよ」  母親が、何度も俺に頭を下げて子供の手を引いていった。 「君、今の言葉が分かったの?」 「いいえ」  でも、表情や仕草が正しければ、言葉よりも雄弁であろう。  話しかけてきた男を見ると、弁当が無い理由が分かった。買い物かご一杯に、弁当が入っていたのだ。 「でも君、言葉を理解していたよね?」  どうして、そんな事が分かるのだろうか。  まじまじと相手を見ると、懐中時計を見て時間を確認していた。三つ揃えのスーツを着た若い男で、サラリーマンには見えない。 「ねえ、弁当をあげるから、少し、手伝ってくれないかな」  弁当で手伝い、一体、この男は何なのだ。しかし、手招きされると、レジ袋に入れられた大量の弁当を持たされた。 「はい、運んで……」  重い。レジ袋を見ると、飲み物も入っていた。  男の後ろをついてゆくと、路地のような道に入った。この道は、あまり使用したことがない。  この駅は郊外であるが、駅前には会社も多く、又、人通りは多い。駅から左右に分かれ、線路と変更して伸びる、一番商店街と二番商店街。二番商店街の先には、小中高に、専門学校、大学と続く学校ばかりの場所がある。一番商店街の先には、有名な寺社があった。どちらも、全く趣は異なるが、人の通りが多い。俺のアパートは、一番商店街を終わりまで歩いた、その先にある。  この道は、揶揄して三番商店街と呼ばれたりもするが、葬儀社や葬儀場、そして駐車場が多い通りであった。 「はい。上って」
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