第1章

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 百舌鳥も、罪状には興味はないらしい。 「彼女達も教えてくれないしね……」  ここで働く女性三人は、名前さえ名乗ってはくれない。警察官とは分かっているが、機密の勤務になるらしい。  ベランダの横で、空気のように、初老の水早が植物を育てていた。水早は、警察官ではなく、初期から生葬社にいるメンバーの一人なのだそうだ。  本当に空気のようで、存在は全く気付かない。ただ、弁当を購入してくると、ひたすらに食べている。  百舌鳥は、俺の教育係になっていた。俺も、特に仕事がなければ、店長室に長居する。今は、事務室のミーティング用テーブルで、百舌鳥は寛いでいた。 「生葬社は、何年前からあるのですか?」  俺は、給湯室で茶を煎れると、百舌鳥に出してみた。  今日の予約は、後一件ある。泣き止まない赤ん坊の、事情を聞いて欲しいというものだ。  赤ん坊に泣く事情があるのかは、俺には分からない。 「五百年くらい前かなあ。江戸時代にはもうあったと聞くよ。設立は、戦国時代とは聞いているけど」  五百年?水早は、一体、何歳であるのだ。  俺は、子供が見つかったので、透明ボードの資料を整理して袋に詰めた。紙を外すと、透明のボードなので、どうしても汚れが目立つ。綺麗な雑巾で、ボードを磨いていると、百舌鳥がその横で新しい資料を貼り始めた。 「拭いてから、貼ってもらえませんか?」 「ここは綺麗だから」  全部綺麗にしてから貼ったほうが、気持ちがいいのではないのか。  ため息をつきつつ、資料を見ると、赤ん坊の情報であった。  生まれて六か月、幼児虐待でないのならば、一日中泣いていても、おかしくはないと思う。  けれど、この子は、父親を見ると、しくしくと泣き続けるのだそうだ。その姿が、あまりにも悲しそうで、見ていられないらしい。 「もうすぐ、来るけど。まあ、記録者であることには間違いがないのだけど……」  記録者は、前世のような記憶で、継続中の記録を見てしまうことがあるのだそうだ。 「普通、赤ん坊の時には、記録は読まないのだけどね……」  赤ん坊など、俺は面倒を見た事がない。自分の子供は、まだいないし、長男であったので、兄や姉の子供というのもなかった。 「赤ん坊……」  近所の赤ん坊といっても、もちろん面倒を見たこともない。親類には敬遠されていたので、もちろん赤ん坊を抱いたこともない。
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