第1章

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「帖佐さん、何故、この女性をここに連れてきましたか?」 「何かあったら来いと、儀場(ぎば)さんに言われていました。それと、この女性を警察に連れてゆくのは、可哀想でした」  そもそも、電話を掛けたのは、儀場という人ではないのか。 「電話の主は、儀場でしたか?」  やはり、百舌鳥もその点が気になるらしい。 「……そうなのかなあ、丁度、電話を取った時に、消防車やら救急車やらが近くを走っていましてね、声が聞こえ難かった……」  百舌鳥が腕を組んで、考え込んでいた。 「儀場ですね……」  俺は、弁当を女性達に配ってみた。皆、昨日から何も食べていないと、喜んでいた。そこに、奥から年配の男性がやってくると、弁当を一つとって食べ始めた。 「水早(みずはや)さん、お目覚めですか?」 「はい、珍しい人間がいるようなのでね、見学しに来ましたよ」  水早は、初老とも呼べる年だが、上品なスーツを着こなし、お洒落な感じがしていた。にこにこと笑う水早は、俺にも弁当を出してきた。 「食べましょう。遊部さん」  俺は、勝手にお茶を煎れると、水早に出した。 「ああ、やはり、いいですね……ここにも、新人が欲しかったですからね。新人に、お茶を煎れて貰うのは、社員の喜び」  お茶を飲みながら、水早はゆっくりと弁当を食べていた。  俺も、水早に並んで弁当を食べだすと、改めて内部を確認してみた。  ドアとの間には、衝立、横に湯沸かしなどが置かれた給湯室が、小さくあった。ここは、事務所の接客スペースのようだが、ミーティングルームのようにも見えた。奥に向かい、水早の出て来たドアと、もう一つあった。 「君は、神の言葉を持つ者と呼ばれたね。それは、可能性の一つでね、言葉を一つにするという可能性を秘めた者、だよ。ここには、試験体が多く集まるように、組まれている」  水早は、女性達を見ながら、にこにこと笑っていた。  ここは変だ、部屋を見ても、何の商売をしているのか分からない。パンフレットの類も一切ない。許可証など、掲げられているものもない。 「彼女達が、探しているのは、子供なのかな?彼女達は、異国で働き、寂しく希望もなくなっていた、子供は全てと言ったよね。子供は無くしたもの、で、あるよ」  俺は、水早を見てから、彼女達を見た。他国で必死に働くことが、悪いだなんて思わない。必死にたどり着いた先がここなら、俺は、何とかしてあげたい。
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