第1章

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「あの、成己のものですが、新品ですから使ってください。風呂も用意していますので、どうぞ」  風呂といっても、俺がいないと昴が眠ってしまうので、昴と一緒の風呂であった。風呂は広く、二人でも問題はないが、昴はふらふらで介助を必要としていたので、つい、面倒を見てしまう。 「昴、シャンプー」 「しかし、遊部さん、体もきれいですね。もう成己の恋人でもいいかと思ってきました」  何度も言うが、別に恋人ではない。俺がため息をつくと、昴が笑っていた。  昴が成己を思う気持ちはわかる。血が繋がっていなくても、一緒に育てば兄弟のような気持がわく。幸せになって欲しいものだ。 「俺も、自分の借りを返すために、生葬社でバイトをしますよ」  どうして昴が、生葬社を知っているのだろうか。問い質そうとすると、すっかりのぼせてしまっていた。 「あがります」  昴を抱えて風呂を出ると、車イスが用意されていた。良かった、ふらふらの昴を抱えて歩かなくて済む。  車イスに昴を乗せて、昴の部屋に向かうと、部屋には俺用の布団も敷かれていた。昴はベッドで、俺は床というのが、身分の差?を感じる。  ベッドに昴を降ろすと、敷かれていた布団に転がる。結構、疲れた。 「俺、回収屋のバイトをしていましたから、結構役に立つと思いますよ」 「回収屋?」   昴は、回収屋でバイトをしていたと言う。この丼池家は、各種の異物を所有していて、昔から回収屋に狙われていた。そこで、昴は回収屋に逆に近づいてみたのだそうだ。 「成己が生葬社でバイトを始めたのは、そんな俺のせいです」  回収屋は、結構、稼げる。  ドアをノックする音が聞こえると、丼池が部屋に入ってきた。 「水早さんに聞いてきました。昴は、完全に定着すれば、元通りに生活できるようです。でも、定着するまでは、時間を要し、より長く本人でいる事が大切とのことです」  長く本人でいることは分かったが、何故、俺のいる時だけ目覚めているのだろう。 「興味のあるものに、執着するので。俺の恋人がどんな人なのだろうで、意識を保っているのでは?」  他に興味を持って欲しい。 「昴君の彼女を探そうか?」 「ああ、最後に一緒にいたのは彼女ですが、今は興味ありません」  そもそも彼女、大物を狙う回収屋でもあったのだそうだ。昴へ近づいたのも、家に入る口実であったらしい。
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