第1章

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 次の日、昴は本当に生葬社に来ていた。まだ車イスであるが、百舌鳥とアルバイト採用可否の面接をすると、一発で合格していた。 「当然でしょう」  車イスを自在に操り、接客スペースでくるくると回っていた。 「百舌鳥さん。いますか」  生葬社に入ってきたのは、鹿敷であった。既に、新しい肉体に馴染んでいる。前の鹿敷を知らないが、多分、知っている人も、肉体を乗り換えたとは分からないだろう。顔も仕草も、鹿敷になっているような気がする。 「俺のバイクと肉体は、誰が持って行ったのでしょうかね?」  鹿敷が、腰を押さえていた。 「バイクは盗難届を出しているのですね。肉体は、盗難届は出せませんからね」  百舌鳥が、どこかに問い合わせをしていた。 「バイクは盗品売買でロシアに売り飛ばされていますね。戻って来ないでしょう。すると、盗品の自覚があるということです」  肉体もロシア?に売り飛ばされたのだろうか。 「せめて、体は返して欲しいよね」  鹿敷の悲痛な訴えに、百舌鳥は顔をしかめていた。 「鹿敷さん、貴方は特異体質です。かつても、肉体を乗り換えている」 「そうだね、あれは事故でね。気がついたら、同乗者で無事だった人の体を乗っ取っていた」  自分の体は、車に潰されて原型を留めていなかったという。 「体は諦めてください」  どうして?俺が百舌鳥の見ている画面を見ると、鹿敷の体はガンの末期であったという。進行が早く、あと三か月は持たなかった。  これは偶然ではないのだろう。もしかしたら、儀場が何かを変えている。 「分かったよ」  鹿敷が部屋を出ようとしていた。鹿敷は、黒のスーツを着ているので、これから仕事に行くのだろう。 「儀場と同棲していますよね?」 「まあね、いつもの体で支払いだからね。まだ未納だ。この体ではね。先だけで、失神するからさ」  百舌鳥は、頷いて手を振っていた。 「前回は二年、同棲でしたね」 「そう、毎晩、ばっこんばっこん掘られてね、こっちもすっかり慣れたけどね。それではいけないと、女性と結婚しようとしていたのにね。又、同棲に逆戻り」  儀場が、何度も助ける相手、その度に同棲しているらしい。 「まあ、俺も気持ちいいからね。同棲でもいいかって思うけどさ」  鹿敷が、手を振ってドアから出て行った。 「鹿敷さんと同棲。儀場は今度こそ手に入れられるのでしょうかね」
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