第1章

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「空き地に、行ってみます」  どんな空き地であるのか。俺の言葉に、一人が黙って地図を描いてくれた。 「……どっちが、北?」  北以前に、目印となるものは何なのか。 「そう、ここが駅なのか……」  俺は、車の免許は持っていて営業で社用車は乗っていたが、自分の車は持っていない。この空き地、結構、駅から離れているのではないのか。縮尺がどうにも分からない。 「デジカメで空き地を撮ってきて。下のスクーターを乗っていっていいよ。ここに、ヘルメットもある」  デジカメを投げられて、俺は受け取ってしまった。  顔を上げると、百舌鳥と水早がにこにこと笑っていた。二人とも、浮世離れした上品さだ。実務をする人間がいなかったのか。 「……スクーター借りていきます」  階段を降りた先の駐輪場に、蛍光ピンクに赤い炎の模様が入った、スクーターが置かれていた。これは嫌だなと思いつつも、これしかスクーターが無かった。  恐る恐るキーを差してみると、エンジンがかかった。 「……これ……?」  誰の趣味であるのか。エンジンが掛かったということは、この鍵はこのスクーターなのであろう。  諦めてスクーターに乗ると、空き地に向かってみた。  駅から離れ、バス停で十くらいは離れたであろうか。アパートが連立して建っていた先に、該当の空き地があった。  アパートにも、かなり古いものもあり、新しいものもある。この空き地の両脇は、かなり旧式のアパートが建っていた。築五十年くらいはいってしまいそうに見える。共同の風呂とトイレのアパートなど、今は見かけることもない。  特にトイレが、通りからよく見える。その横に、共同風呂などと、変な看板がかかっている。こんなに、通りからよく見えるトイレであるのに、ドアがない。個室にはドアがあるが、他は丸見えであった。 「住んでいるのか、ここ……?」  でも、どこか生活感があった。  そんなアパートに挟まれた空き地は、売りに出ていた。不動産屋の看板に、電話番号が書かれている。  簡単な推測をすると、両隣と同じようなアパートが、取り壊されて空き地になったのだろう。  空き地には何もなく、整地されていた。雑草の生え具合からすると、最近、空き地になったわけではない。土もしっかりしていて、整地したのは、数年前と推測できる。  子供の遊び場にもなっているのか、踏みならされた箇所も多く、縄跳びの紐が落ちていた。
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