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「綾乃。お母さんからも、少しだけいいかしら?」
「うん…?」
母の突然の申し出。
まだ何か
サプライズでもあるのだろうか?
「優喜さん、綾乃、本当におめでとう。
『ブライダル・ウイング号』の話を聞いた時は、正直驚いたけど、同時に嬉しさがこみあげてもきました。
綾乃。あなた、お父さんが京急電車を好きだったから、よく電車を見に連れて行かれた自分も、電車が好きになったと思ってるでしょ?」
???
違うの?
「本当はね、逆なの。お父さん、電車なんか興味なかったのよ。昔からバイク乗りでね、乗り物と言えばバイクにしか興味のない人だったから。」
「え…!?」
お父さんがバイク好きなのは知ってたけど…
電車も好きなんじゃなかったの?
「小さい頃の綾乃は、引っ込み思案でね。自分の感情を出すのが苦手だったの。『嬉しい』も、『悲しい』も、なかなか表情に出してくれなかったのよ。
でもね、横須賀中央駅近くの踏切を通った時、たまたま通過した真っ赤な京急電車に、綾乃が反応したのよ。普段は大きな声を出すこともない子だったんだけど、「びゅーん!」って叫んで、嬉しそうに手足バタバタさせてね。見たことないくらいの笑顔で、走っていく電車を見てたのよ。」
!
「お父さん、それがよっぽど嬉しかったのね。それからは休みのたびに『びゅーん、見に行こうか?』てアンタのこと、踏切まで連れて行ってたのよ。
そう、だったんだ…。
「そのうち、趣味だったバイクも売っぱらってね。何買って来たのかと思えば、京急電車の巨大プラレールのセットと、電車でGOのゲーム。綾乃、大喜びだったんだから。」
気丈な口調で話すお母さんの目にも
うっすら涙がたまっている。
「綾乃が電車のチラシ見ながら『けいきゅん』の似顔絵を描いてるの見て、次の日にこ~んなおっきい『けいきゅん』のぬいぐるみ買ってきたこともあったわね。
お父さんが京急電車にハマったのは、綾乃の影響。綾乃が喜んでくれたからなのよ。」
「お父さん…」
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