ブライダル・ウィング号

2/16
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
---♪ 「赤い電車」のメロディーとともに 歌通り真っ赤な電車が品川駅のホームに滑り込んだ。 「綾乃(あやの)…おめでとう」 普段は気丈な母の かすかに震える声に 涙がこぼれ落ちそうになる。 「お母さん… ありがとう…」 母の腕を そっと掴み 真っ白なウエディングドレスの裾が汚れないよう 足元に気を配りながら 電車に乗り込む。 普段は通路となっている部分に敷かれた 真っ赤なバージンロードが 4両先まで続いている。 先頭車両の 車掌室前には きっと 着なれないタキシードに身を包んだ彼が 少しはにかんだ笑顔で待っているのだろう。 約200席ある座席は 全て、式の出席者でうめつくされ 思い思いに着飾ったドレスや着物が 幸せな今日という日を彩っている。 私たちが乗り込んだのを確認すると 白いポケットチーフを胸に挿した車掌が 発車の合図を送る。 そして 特別4両編成の 「ブライダル・ウイング号」は ゆっくり ゆっくりと 動き出した―――。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!