ブライダル・ウィング号

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1年前、私たちが出会ったのは 着席保証列車『モーニング・ウィング号』がきっかけだった。 定期券であるウィング・パスを購入している私は 平日は毎日この列車を利用していた。 席は確保されているが、座席指定はないため どこに座ってもいいのだが 3号車の7列目、左側窓際の席。 と、なんとなく自分の座る席を決めていた。 そんなたいした理由ではない。 誕生日が3月7日だったから。 ただ、なんとなくだ。 しかし4月上旬のある日。 私のいつもの席に 彼が座っていたのだ。 後で聞いた話だと 会社の寮があまりに閉鎖的で嫌気がさし 横須賀中央駅近くで一人暮らしを始めたタイミングだったらしい。 いつもの席に座れなかったことは 今までにも何度かあった。 たまたま別の人が先に座ってしまっていたのだ。 でも彼の場合は 次の日も、その次の日も ずっと同じ席に座っていた。 これも後で聞いた話だが なんと彼の誕生日も 私と同じ3月7日で 縁起をかついで その席に座っていたらしいのだ。 仕方なく1つ後ろの席に座ることにした私は 何となく彼を目で追うようになっていた。 私と同じ横須賀中央駅から乗って 品川駅で降りていく彼。 私は終点の泉岳寺駅まで乗っているので いつも彼の後姿を こっそり見送っていた。
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