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しかし
1か月ほどたったある日。
よっぽど寝不足だったのか
品川駅についても
彼が降りなかったことがあった。
「?」
後ろから遠慮がちにのぞいてみると
「…え~」
寝てる。
てかコレ、まずいんじゃない?
降り過ごしちゃったら、遅刻でしょ?
「…あの!」
思い切って
彼の肩をゆすってみた。
「品川駅ですよ!」
耳元で大きめの声で叫ぶと
「…ん~?……あ!!!」
ようやく目が覚めたらしく
荷物を掴んで、慌てて電車を飛び降りた。
「よかった~…。」
何とか間に合ったみたいだ。
彼の姿を確認しようと
窓の外に目をやると
「!」
彼が私の座っている席の近くまで来て
窓越しに
深々とお辞儀をした。
その律義さと端正な身のこなしに
私が驚いていると
顔を上げ
少しはにかんだ笑顔で
「あ り が と う ご ざ い ま し た」
と
窓越しでも唇が読めるよう
ゆっくりと彼が口を動かした。
次の日から
私の(勝手な)指定席は
彼の後ろの席から
彼の横の席へと
変わったのだった。
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