プロローグ 創生の楔

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「理解できません」 いつの間にか髪が長くなった方が口走る。それは先ほど、脳を一部削いだ個体の方だった。 吾輩は少し思い悩み、答える。 「ふむ、良いか。お前達は吾輩から与えられた目的を達して差し出す事が存在意義である。そして、それは吾輩が存在し続ける限り、お前達の存在の証明になるだろう」 2つは頷きながらも、目はさらなる答えを求めている。 「しかし、吾輩にはそれが無い。お前達の視点からは存在の証明が可能だろうが、吾輩の視点では証明する事が不可能だろう?」 髪が短い方が眉を顰めて質問する。 「主は私達を造られました。ならば、私達が主の存在の証明になるのではありませんか?」 髪が短いほうが論理的思考能力に優れているようだ。後々、個体差は出るだろうが、まあ良い。 「良い着眼点だが、それは有り得ぬ。お前達が吾輩の仮想の存在でしかないのであれば、お前達は吾輩の存在の証明には到底ならぬ。」 なるほどと髪が短い方は頷く。 「まあ良い。これから10の規則を宝として与えよう」 第1に、吾輩が一番偉い 第2に、吾輩の目的である『存在の証明』を発見次第、必ず献上せよ 第3に、稼働時間が長いモノに従え 第4に、吾輩に代わりは存在せぬ 第5に、吾輩に献上できるようになるまで吾輩を呼ぶな 第6に、共食いをしてはならぬ 第7に、肉体を改造するな 第8に、不完全体を増やすな 第9に、基本となる分類項目を操作するな 第10に、自己中心的であれ 「以上である」 吾輩は楽な態勢になり、体を休める。最近、随分と堕落した生活を過ごしていた為か、疲れやすい。 「畏まりました、しかと受け取りました。未来のの子等にこの宝を永遠に伝えます」 「うむ、それで良い」 楔が吾輩の魂に痛みを訴える。思考させる事をやめさせないようだ。このような痛みを毎日のように襲わせる原因となった奴が恨めしい。 「それでは、今すぐにでも私達は旅立ちます」 彼等は吾輩が用意した境界線上に立つ。 「ああ、待て」 私は1つ思い出し、それらを呼び止める。 「はい、何でしょうか。我が主よ」 「うむ、お前達に名を授けよう。吾輩の目的を絶対に忘れぬように」 「ありがたきお言葉、感謝を申し上げます」 吾輩は少しの間思考し、2つの名を思いつく。 「髪の短き方は『アダム』、髪の長き方は『リリス』としよう」
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