超・妄想【「誰か助けて！」】*

心の中ではずっと、ずっと叫んでた。

一人の女性が、山道を歩いていた。

下っているのか、上っているのか。

彼女自身もよく、分かっていなかった。

汗と涙で薄めのメイクは崩れ、それをカーディガンの袖で拭うものだから袖は黒とうっすらした赤に汚れていた。

足元は山歩きには不釣り合いなパンプス。ローヒールではあるが、いくら舗装されているとはいえ打ちっぱなしのコンクリートを長く歩けば、靴擦れも出来るだろう。

いっそ脱いでしまえば楽なのにと思わずにはいられない、痛々しい傷跡からは血が滲み、パンプスと肌色のストッキングを汚す。

喉を締め付ける細い呼吸。心臓は壊れかけたポンプのようで、血流を作り出すが、全く楽にはならない。

じんわりとまた、両目が滲む。

どれだけ痛くても、どれだけ苦しくても彼女は歩みを止めるわけにはいかなかった。

山道の途中で電話をするために車を停め、外に出たところ、車の中に残っていた子どもが鍵を閉めてしまったのだ。

皮肉にも天候は良すぎる程に晴れで、日陰に車を停めたものの、ほんの一時間程で日が入り込み、車内の温度は上がりだしていた。