0人が本棚に入れています
本棚に追加
ハッと目が覚めると、一瞬、乗り過ごしたかと焦ったが、品川駅手前だったので助かった。やれやれと僕は腰を深く席に沈めた。その時、正面に座っていた女性がなんとなく目に入るや、その刹那、鼓動が胸を大きく叩いた。
あの彼女が座席で転寝していたから驚いた。髪が短くなっていたので、一瞬、違うかなと思ったが、逆に、顔がよく見えて、わかりやすかった。あの時よりも、あの彼女だとわかる。心臓の鼓動がどんどん高鳴っていく。
車内アナウンスが流れ、まもなく電車は品川駅に到着しようとしていた。おそらく、彼女は品川駅で降りるはずだ。起きる気配はまるでない。起こさないと。でも、少なからず人違いの可能性はある。このまま行ってしまうことは簡単だ。
あれこれ逡巡するものの、時間は待ってくれない。電車が品川駅に止まるや、ドアが開いた。車内が空いていたというのもあり、僕は、最後に座席を立ち、彼女の肩を軽く叩いてみせた。
彼女は、すぐに目覚めるも、僕には気付かず、自分の居場所を確認しているようにきょろきょろしてみせた。そして、見上げた表情は、あの時の彼女だった。一瞬、時間が止まったような感覚だったが、僕は、何も言わずに、彼女の顔前で、手を一回、二回小さく降ると、彼女は、あっという表情を見せた。その瞬間、僕は、小さく笑っていたと思う。
一緒に電車を降りると、ホームアナウンスが響く品川駅のホームは真夏の暑さでむせ返っていた。
「ロスだと、こんなじめじめしてないよね」
「気温が高くても、カラっとしてるからね」
「また、ロスに行きたいね」
「サンタモニカとかね」
「いいね。ババガシュリンプでエビ、いっぱい食べたい」
僕は、そんなことより、もっと先に話したいことがいっぱいあったけど、ロスの話をしながら、品川駅のコンコースを二人で歩いているうちにどうでもよくなっていた。再会したという感覚はなく、帰国したあの日と同じ出逢いがそのまま繋がり、ロサンゼルスの楽しかった会話が二人の間で熱を帯びていた。
最初のコメントを投稿しよう!