第1章

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この辺で来る若い男性客の数は少ないし、その少ない中でも目立つ存在なのは確かだ。 気にしないほうがおかしいでしょ。 美加子は自分を納得させた。 店の開店時間になり、近所の人が少しずつ来店してきた。 昼すぎまでバタバタとレジをこなし、客足が少しとだえたところで昼休憩に出ていいと磯辺が言った。 パンでも買おうと近くのコンビニへ向かう。 線路沿いを歩いていると、ホームに小さい男の子が母親と手をつないで立っているのが見えた。 3歳ぐらいだろうか。ちょうど向こう側に来た電車を見てはしきりに何か言い、嬉しそうにジャンプしている。 ふふ、子鉄かな。美加子は思わず微笑んだ。 京急線は、私鉄なのだが鉄道ファンにはかなり人気があるらしく、 カメラを構えている人もよく見かける。 美加子は電車の事はよくわからないし、 毎日乗っている線なので特別珍しくも感じないが この赤い色がいいのかな。 そんなことを考えながら、コンビニでパンを買い、店へ向かう。 まだ男の子は電車を見ている。 男の子に気を取られていたせいで、店の前に「土曜日の彼」が立っていることに気付いたのは、 彼から5メートルという距離になってからだった。 「こんにちは。」 そう彼が挨拶してくれたのに、美加子は驚いて言葉が出なかった。 「あの、ごめんなさい。お店にいらっしゃらなかったんでちょっと待ってみちゃったんですけど」 そういって彼は照れたように笑った。 今日の彼は青いデニムシャツにグレーのパンツ。かっこいいけど髪は寝癖がついていて、かわいい。 「あ・・・ごめんなさいぼーっとしてて・・じゃなくてお昼買いに出てたので」 美加子はあわてて言った。 突然目の前に彼が現れただけでなく、自分を待ってたという言葉で頭が真っ白になってしまった。 彼が?私を?待ってた?なんだろう、もしかして・・・ いや、取り寄せを頼みたいのに磯辺が私に言うように言ったとか。 ありえる。 「ど、どうしたんですか?わたしになにか・・・」 「あの、こんなこと言って困らせたくないんですけど」 そういって彼はじっと美加子の目を見た。 なんだろう。本の話じゃなさそうだ。
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