第1章

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無情にも電車は走り去ってしまった。 ゴトンゴトンという音だけが澄んだ青空に響く。 「あーあ・・・いっちゃったよ」 男の子も横で残念そうに言っている。 母親はそんな男の子に笑いかけながら、そうだねぇといっている。 よく見ると、前に生麦駅で電車を見ていた男の子と同じぐらいだ。 電車がいってしまったばかりのホームに親子と一緒に入る。 「おねえさん、でんしゃいっちゃったね!」 男の子が突然美加子に話しかけてきた。 「ほんとだね。おねえさん、遅刻しちゃうかも」 美加子は笑顔で答えた。 「ちこく?ちこくしちゃうの?」 不思議そうに男の子が聞く。 そうか、まだ遅刻という意味がわからないのかもしれない。 「すみません・・いきなり。誰でも話しかけちゃうんです」 男の子の母親がそう言いながら笑いかけてきたので、 美加子も笑顔を返す。 昼過ぎという中途半端な時間ということもあってかホームには美加子とその親子しかいない。 仲木戸駅は快特が止まらないので次の電車まで10分以上あった。 美加子と親子はなんとなくベンチに座ると、男の子は嬉しそうに話しかけてきた。 「いつもはね、なまむぐえきででんしゃ見てるの」 「なまむぐ・・・なまむぎかな?」 「うん!おうちがあるの。」 「そっか。おねえさんもね、生麦駅にいくんだよ。そこで働いてるの」 おねえさんと自分で言うのもどうかなと思ったがそこは独身の意地だ。 「ふーん。かいしゃがあるの?」 男の子の無邪気な質問で美加子は笑顔になった。 「ふふっそうだね、会社かな。」 もしかしたら、先週ホームで電車を見ていたのはこの子なのかもしれない。 アナウンスが流れて、快速電車がホームを通過した。男の子は夢中で電車を目で追っている。 「ママ、きいろいでんしゃは??」 「黄色い電車はねーなかなか来ないからね。乗りたいね」 美加子もなんとなく気になり、会話に入る。 「京急に黄色い電車があるんですか?」 「1車両だけ毎日違う区間で走ってるみたいなんですよ」 母親が教えてくれた。 「イエローハッピートレインていうんだよ!のったらしあわせになるの」 男の子も興奮気味に言った。 1車両しかない黄色い電車。 乗ったら幸せになれる。
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