第1章

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美加子は普段そういうジンクスのようなものはあまり信じないタイプなのだが 男の子が素直に乗りたがっているその電車を、美加子もただ見てみたいと思った。 ・・・幸せになりたいしね。 そのあとは男の子が持っていた電車のおもちゃを並べて美加子に説明しだしたのでそれに付き合い、来た電車に3人で乗った。 親子と別れ、店へ向かう。 平日の昼はそんなに店も客が入らないからか、 磯辺が椅子に座って今にも寝てしまいそうになっていた。 「おはようございます」 美加子が声をかけると、びくっと肩が動いた。 「なんだ、美加子ちゃんか・・・おはよう。今日はほんとひまだよ」 「みたいですね、磯辺さん寝ちゃってるのかと思いましたよ」 美加子が笑いながら言うと、そんなことないよとかモゴモゴ言いながら磯辺が立ち上がって伸びをした。 エプロンをつけて支度している美加子を磯辺は何か言いたそうに見ていたが、 客が入ってきたため、そちらに注意がいった。 明らかにいつもよりお洒落しているのに気付いたかな。 それからはいつものように、レジを打ち、カバーをかけ、予約本を受け、雑誌の付録を付けて過ごした。 もうすぐ19時というときになって磯辺がもうあがっていいよと言った。 「あ、はい。」 店は20時までなのだが、忙しい土日以外いつも磯辺は美加子を19時頃に上がらせてくれる。 荷物を置いている棚でエプロンをはずしながら、美加子は急に緊張してきた。 どうしよう。 本当にわたし今日デートするんだ!あの人と! いそいで裏のトイレの鏡でメイクを直していると、携帯が震えた。 彼からメールだ。 「こんばんは。少し仕事が早く終わったので、お店に行こうかと思ってます。まだお仕事中かな。」 どうしよう。 迎えにきてくれるなんて嬉しいけど恥ずかしい。 磯辺に明日何を言われるかわかったもんじゃない。 「わたしも早く上がれたので、出ますね。」 急いで返信を打って店を出た。 線路沿いを駅に向かって歩いていると、ちょうど横浜方面から電車がきたところだった。 彼の仕事場は横浜だと言っていたから、この電車に乗ってるかもしれない。 フェンス越しに電車を眺めながら歩いていると突然声をかけられた。 「澤井さん?」
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