第1章

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彼だった。 同じ線路沿いの道を駅から美加子のほうに向かって歩いてくる。 今日の彼はまた素敵だ。 白いボタンダウンシャツに、黒い細身のパンツをあわせてきちっとしているのだがやはり今日も髪はくしゃしゃだ。 美加子は精一杯自然な笑顔で、こんばんは・・と返事をした。 どうしよう、こんな素敵な男性と今からデートをするなんて。 「澤井さんも早かったんですね、良かった。」 「はい、暇な日はオーナーが早く上がらせてくれるので」 2人でそのまま駅へ向かい、電車に乗る。 「あんまりこのへんお店知らなくて・・・遠くなっちゃうんですけど」 と彼が言う。 横浜の店を予約してくれたのだという。 繁華街のイメージがあって、美加子はあまり買い物以外で横浜へは行かないのだが、 着いてみると意外と店の近くは人が少なかった。 「こっちのほうはあまり人がいないんで、よく来るんです」 「そうなんですか、横浜駅あまり来なくて・・・ええと豊田さんはこっちにお友達がいるとか?」 すると彼がニコニコと笑いながら言った。 「いえ、仕事で来るんです。あの、豊田さんはやめませんか?亮介くんとか・・・呼んでくれると嬉しいんですけど。」 美加子がモゴモゴと恥ずかしがっていると彼が続けた。 「僕も、美加子ちゃんて呼んでいいですか?お店の店長さんがそう呼んでるの、いつも聞いてたんでうらやましかったんです」 美加子はまた赤面して頬が赤くなるのを感じながら、 はいと返事をした。 どうしよう、私こんな調子で食事できるのだろうか。彼に嫌われたりしないだろうか。 しかし思いがけずそのあとはとてもスムーズだった。 彼の予約してくれた店はとても素敵で、おしゃれだけど落ちついた雰囲気だ。 運ばれてきた料理はどれも美味しそうだし、半個室という空間で彼と二人にもかかわらず美加子はすっかりくつろいだ気分になっていた。 「よかった。今日来てもらえて・・・。僕、心配だったんだ。美加子ちゃんに断られたらどうしようって。」 美加子がホタテのカルパッチョをつまんでいると彼が突然そんなことを言ってきた。美加子は思わず赤面する。
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