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快楽部実態調査
朝の登校にはストレスが伴う。同じ時間に同じ場所を目指す都合上、どうしたって生徒の群れ混じることを余儀なくされる。
勝手に耳に入ってくる話題にまた苛立たされた。夕べ観た動画だの、授業がダルいだの。気楽に奔放でクソほど羨ましい。
本音としては全員蹴散らして進むか、いっそ帰ってしまいたい。が、そんな優等生らしくないことはできないので笑顔を固めてできるだけ足早に校舎を目指すだけだ。
「草可くん、おはよう」
「ああ、おはよう」
「おっはよー草可!」
「……おはよう」
自慢じゃないがそれなりに顔は広い。普段社交的に過ごし気軽に声をかけやすい空気を出しているので違うクラスの人間からもこうして声をかけられる。最近ではむしろ同じクラスより違うクラスのほうが親しく話しかけてくるような気がするから不思議だ。
なんにしても、そんな日頃の行いを後悔している。それさえなければもっと学校生活が楽だった。もっとも、それをやめれば優等生ではなくなるというジレンマが生まれるだけだが。
(やめれば楽になれるんだ。……やめちまうか)
それなら選択肢は蹴飛ばすか帰るか。
ここは景気良く、と選び出そうとしたときに横から葉櫓浦さんが顔を出した。
「おはよう。草可くん」
一瞬にして世界が平和になった。体の隅々までストレスを感じる機能の一切が消え去る。
「今日も放課後よろしくね。その……快楽部」
手放したストレスが一気に押し寄せてきた。
そう言えばそうだった。葉櫓浦さんとの接点は唯一その一つ。
第一彼女の前ではより一層強固に優等生の姿勢を保たなければならない。しかもあの快楽部に関わりながら、だ。身が引き締まりすぎて軋んでバラバラに砕けそうだ。
「わあ……嫌そうな顔するね。そんなに苦手?」
思わず顔に出ていたらしい。原因がハッキリしているだけに「葉櫓浦さんと一緒が嫌」と受け取られなかっただけよかったと考えることにして、気分を持ち直す。
「なんていうか、ああいう面白おかしく生きてるだけの連中って、どうなんだろうな……って」
許されるわけがない。内心ではそう思いながらも、強く言うのは避けた。葉櫓浦さんに否定されると心のどこかで予感していたからかもしれない。
「ううん、きっとそんなにお気楽じゃあないと思うよ。悩んだりするから、楽しみがほしいんだよ。悩みごとがないヒトなんていないんだし」
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