思春期という呪い

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 産まれて生きて16年と少し。記憶のあるかぎり絶え間なく「優等生」と呼ばれて過ごしてきた。  ルールに従順で、それでも誰かをないがしろにするようなことにはけっして従わなかった。  模範的な生徒。理想的な友達。そんな風に呼ばれて、自分でもそう思っていた。  けど、そうじゃなかったらしい。 「おい! いつまで残ってるんだ、草可(くさか)。早く帰りなさい」  教室を覗いて声をかけてきた担任教師に、睨み付けようとする目を閉じ「うるせー、ほっとけ」と噛み付きそうになった口を押さえ、歯を食いしばって堪える。 「あ、ああ……すいません」  しどろもどろに返事にもならない言葉を絞り出すのがやっと。高校に入ってからずっとこの調子だ。  優等生を演じていたつもりはなかった。それなのに以前と同じようなことが自然とできない。「そのうち治まる。調子が悪いだけ」と自分に言い聞かせてきた辛抱ももう限界だ。  とにかくただただ無性にイライラする。 「クソがっ! 一体なんなんだよこれは!」  自分の中で膨らんだ暴力的な衝動を抑えられず、ゴミ箱を蹴飛ばす。  ありていに言えば――思春期。そういう呪いに俺はかかった。 「ああもう……。物蹴ってそれでどうなるって言うんだ」  暴力を奮って大きな声を出す。いかにも不毛な行為だ。こういうときはきまって自己嫌悪の海に沈む。とことん得が無い。  今までは無意識に演じていたニセモノで、放課後の教室で暴れるこれが自分の本性だとしても「戻りたい」と心から願う。こんな粗暴なだけの人間を、誰が喜ぶだろう。  いつかこの悪夢が覚めて元通りになるか、あるいは演じる自制心が身に付くまでは周囲にこの呪いを隠し通すことが当面の課題だ。
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