快楽部実態調査

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「早く本題を進めましょう。朝のホームルームが始まってしまう」 「アンタなに言ってんの、今は昼休みだぞ?」  本当だった。時計の短針が上を向いて、クラスメイトは大半が消え失せている。  どうやら今朝のことで呆然としているうちに随分と時間が経ってしまっていたようだ。 「しまった、弁当を食べないと......食欲ないからいいか」 「それじゃ午後がんばれないでしょ。購買行き損ねたんだったらボクのお弁当食べる? アンタを懐柔するつもりで張り切って作ってきたんだ。一生懸命になりすぎて、アンタのこと好きなんじゃないか? って自己催眠にかかりかけるくらい」  なにやら頬を染めている。バカじゃないのか。 「手仕事が好きだから料理してるうちにトリップしただけだろうが。ーーって、料理のクオリティ低いな! 握り飯に漬け物って、もう笹の葉で包め笹の葉で!」 「なによぅ。割と真剣にショックなんだけど」  問答無用で渾身の作らしい弁当を奪い教卓へ置いた。乱暴にしたわけでもないのにただでさえ形が歪だった握り飯が崩れる。  教卓から離れると、女子の手作りに飢えた男どもが集まってあっという間にたいらげてしまった。 「なにすんの、アンタに食べてほしかったのに。いやでも毒を盛る作戦にしなくてよかった……」  が恐ろしいことを言う。もう部の存続どころではない次元の話なのでいっそ聞き流すことにした。 「いいから本題を」 「ちょっと待って。自分で作った弁当があんな風に取り合いになるなんて、レアな体験なんだから」  自分を抱いて喜びに震えている。  たまにマトモなことをするのでつい忘れそうになるが、コイツも立派な快楽部員だ。 「さて、じゃあ本題ね」  現実に帰ってきた九重米は照れ臭そうに髪を後ろへ払った。 「部の存在価値については昨日で充分わかったよね? アンタが見た以上にたくさんの生徒が心の拠り所にしてるのよ。もし廃部になればそれを失うの。それがどんなに辛いことか、想像してみてよ」 「“心の拠り所“ねえ……」  そう言われて思い浮かぶのは、もちろん光だ。アイツを失ったとしたら。 「ああっ、そんな! イヤだ。俺を見捨てないでくれ!」 「わっ、期待以上の共感。……大丈夫?」  急に泣き出したせいで心配されてしまった。教室の空気もザワザワしている。しかしどんな慰めも光のいない穴を埋めることはできない。想像の話だが。
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