快楽部実態調査

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「お前らそのヒトと知り合い? あー! お前らも”快楽部”なんだろ」  標的がその女子に移った。  そしてその推測は正解だ。昨日、刹那課で見た顔だった。気づいてはいたが教室で部のことに触れられたくはないだろうからソッとしておいたのに、彼らにそうした配慮を期待するだけ無駄だ。  流行や環境に合わせるだけで芯を持たない彼らは自分が納得する価値観を持たない。そういう人間は他者を非難しいじり倒すことでしか自分に満足できない。快楽部よりもタチの悪い現実逃避だ。 「なーなー、部活でどんなコトしてんの? ちょっとやって見せてよ、今パンツ脱ぐから」  勝手に喋って仲間内でゲラゲラ笑っているのを見ていると胸がムカムカしてきた。今すぐボコボコにして窓から捨てたい。 (この暴力衝動は間違ってねえ気がするのは、俺が正気じゃないからか? 殴ってでもやめさせたい状況だぞ)  囲まれた女子は下を向いて震えてしまっている。刹那課の課員は表現課や体育課に比べて普通の女子生徒ばかりだった。おとなしそうで、あんな怪しい部活に出入りしていることが意外な「フツー」の女子だ。とてもこの状況でマトモな反論なんてできやしない。仮に快楽部が問題のない部活であったとしてもだ。 (ああ、クソッ! 少し前までこんなのサッと間に入っていけたのに)  大暴れして衝動を発散したい。そんなことをすればあの女子がきっかけになった自分を責めることを承知で、 自分の思うままに振る舞ってしまいたい。 (ええいクソ、なにもかも知ったことか。全部ぶっ壊してやる)  一気に昂って、席を立ったときにはすっかりそのつもりになっていた。   これからまっすぐ歩いていってゲスどもを殴る。もしかするとそこで止まれないかもしれない。その時はその時だ。ケセラセラ、ぶっ殺してやる。  加速した破滅的な欲求を実現する前に、先を越された。 「ちょっと! うちのカワイイ後輩になにしてくれてんの」  出ていったはずの九重米が男たちの前に立ちはだかった。完全に「帰った」と思っていたので虚を突かれて足が止まる。もう出る幕はない。 (この空気でまだ殴りに行ったら、それこそ目的もない乱暴者だな)  冷静に戻してくれたことに心の中で感謝しつつ、あとはヒーローが悪者をやっつけるのを見守ることにした。
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